学生時代「餃子の王将」(京大農学部前店)には随分お世話になった。下宿から歩いて15分ほどかかったが、当時歩くことには苦にならなかった。
王将の秋のメニューに「肉茄子定食」なるものがあった。これが実に美味かった。茄子と豚肉の甘辛炒めで、タマネギやニンジン、タケノコやピーマンも入っていた。ライスとスープがついて当時450円くらいだったから、今の半額以下だろう。
あまりの美味さに、昼食、夕食と続けて食べたこともあった。今でも自宅近くの「餃子の王将」に時々行くが、このメニューは果たして現存しているのか。今度探してみよう。
昔から茄子は好物だが、この点では妻と好みが一致している。焼き茄子、炒め物、煮びたし、天ぷら、味噌汁、漬物などなど何でも好きだ。そんな中で思い出すのが、私が幼い頃、母がよく作った茄子料理である。
その料理は、我が家では「茄子の田楽」と呼ばれていた。普通「茄子の田楽」と言えば、茄子を真っ二つに切って焼いたものに甘辛い味噌を塗ったものが殆どだが、我が家のものは全くの別物だった。一言でいえば、茄子、ピーマンと豚肉の味噌炒めだった。
私が高校、弟が中学の頃、母が胆石の手術で入院したことがあった。当時の手術は現在の内視鏡によるものではなく大がかりなもので、母の入院期間も1か月以上だった。
はっきりと覚えていないが、その母の入院期間中、私と弟はこの「茄子の田楽」がどうしても食べたくなった。ある土曜日の午後、弟と「とりあえず作ってみるか!」ということになった。
近くのスーパーで茄子、ピーマンと豚肉を買い出しに行き、とにかく、見よう見まねで作ってみた。本来ならば、最初に茄子、ピーマンと豚肉を十分炒めてから取り出し、別途、味噌、砂糖、酒、しょう油などでソースを作り、それを絡めて完成させるものだろうが、とりあえずフライパンに全具材を放り込んで炒めて煮込んで、それなりの田楽が出来あがった。
それにしても、茄子は煮崩れてベチャベチャになり、ピーマンも見る影もなく、惨憺たる見栄えではあったが、食べてみると、これが実に美味かった。料理の途中、味見だけはしていたからだろう。あっという間に二人で平らげてしまった。
妻に、この「茄子の田楽」がどんな味だったのかを伝え、何度か作ってもらったが、いまだに母の味には届かない。母が元気なうちに、レシピなど聞いておくべきだった、とつくづく後悔している。