以前は、夏になると新しいホラー映画が封切られることが多かった。当時はテレビでもホラー映画がよく放送されていたものである。
物心がついてから最初の恐ろしい体験は、幼稚園の遠足だった。行き先は下関水族館。祖母が幼い弟を連れて私に付き添ってくれた。保護者が同行するのが慣例だったようだ。
水族館にはお化け屋敷があった。お化け屋敷は真っ暗なトンネルの中で、トンネル内にはトロッコの線路が引かれており、乗客はそのトロッコに乗って入る仕組みだった。
弟と二人でトロッコに乗り、真っ暗なトンネルの中へ入っていった。覚えているのは、暗闇の中でトロッコが止まり、左右から冷たい手が伸びてきて首を絞められたことだ。私も弟も大声で泣き叫んだ。記憶はそれだけだが、強烈なトラウマとして残った。以来、暗いトンネルとお化け屋敷には入っていない。
私が小さい頃のホラー映画は、ドラキュラ、フランケンシュタイン、狼男など怪物ものが中心だった。ところが1973年に「エクソシスト」(THE EXORCIST)が上映されてから、人に悪魔が憑依するなどオカルトという新たな分野が出現した。
ホラーとオカルトの違いは、ホラー映画が恐怖を与えること自体を目的とするのに対し、オカルト映画はその中でも特に超自然的・宗教的要素を扱うものと言えるだろう。
「エクソシスト」以降も、「オーメン」(1976年)、「キャリー」(1976年)、「サスペリア」(1977年)、「ゾンビ」(1978年)など、オカルトの名作が相次いで公開された。
そんな中、大学1回生のときに友人と観たある映画では、あまりの怖さに途中で映画館を抜け出してしまった。何とも情けない話である。ただ、真相がわからないと余計に怖いので、後日、友人ともう一度金を払って最後まで観た。
その映画は「サスペリアPART2」というイタリア映画である。もともと1975年にイタリアで公開されたもので、原題は「紅い深淵」(Deep Red)。オカルトではなく連続殺人事件をテーマにしたホラー・サスペンスだ。日本公開は1978年で、「サスペリア」のヒットに便乗して「サスペリアPART2」と命名されたらしい。
とにかく、この映画は恐ろしかった。特に殺人シーンが怖いのだ。殺人の前に流れる子供の歌、突然現れる人形、血が滴るナイフを見つめる少年の意味など、小道具があちこちに仕掛けられている。映像も美しく、音響効果も素晴らしい。
あの真っ暗なトンネルの体験以来、暗闇と得体の知れない恐怖は、私の中でずっと生き続けているようである。
今どきホラー映画を観る人も少ないかもしれないが、もし機会があれば、あなたもあの恐怖を体験してみてはどうだろうか。レンタルショップに行けばDVDが見つかるかも知れない。