英語遊歩道(その18)-高木彬光「白昼の死角」-映画版とTV版との比較 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

先日「白昼の死角」テレビドラマ版のDVDが届き一通り観終わった。ドラマは9話で編成されておりDVDは3枚組である。

 

 

TV版は第二次大戦の戦場のシーンから始まる。敗残兵の鶴岡七郎(渡瀬恒彦)は米軍の捕虜となり屈辱的な経験を経て命からがら復員し、隅田光一(山本圭)に出会う。

 

隅田は東大法学部開闢(かいびゃく)以来の秀才であり、鶴岡の他、木島良助(小倉一郎)、九鬼善治(岸部シロー)と組んで東大生による金融会社「太陽クラブ」を設立する。

 

映画版では、その冒頭で隅田光一(岸田森)が狂って焼身自殺を遂げるシーンから物語が始まるが、TV版は冷徹な隅田光一(山本圭)に関する映像を結構な時間含んでいる。

 

個々の詐欺事件に関しては、映画版、TV版ともに中身は同じような感じだが、どちらかと言えば映画版の方が完成度が高いようだ。これはやはりキャスティングの違いによるものと思われる。

 

 

ラストも映画版とTV版では異なる。映画版は、全ての罪を認めた鶴岡七郎(夏八木勲)が保釈中に替え玉による焼身自殺を捏造し自らの過去を消し去って船で海外へ逃亡するシーンで終わるが、TV版では、全ての罪を認め末期の肺結核に冒された鶴岡七郎(渡瀬恒彦)が病院のベッドの上で初めて真の涙を流すシーンで終わる。ちょっと寂しい終わり方だ。

 

全般的に、TV版の鶴岡七郎が映画版より人間的に優しいように思われた。これも渡瀬恒彦と夏八木勲のキャラクターの違いによるものかも知れない。

 

 

もっとも印象的なのはTV版のエンディングである。主題歌「欲望の街」東大・安田講堂の現在(1979年)の映像から始まる。そして予備校「代々木ゼミナール」の学生たちが煙草を吸いながらふざけ合っている様子へと移る。さらに大学野球や大学ラグビーに歓声を上げるスタディアムへと映像は移ってゆく。まさに平和と繁栄を謳歌している学生たちの姿である。

 

映像は突然白黒の写真へと入れ替わる。学徒動員で行進する学生たち、軍需工場で働く学生たち、また軍事教練の映像が映し出される。こちらは、戦時下の不自由な中、お国のために働いている学生たちの姿である。

 

映像は再び現代(1979年)へ。ジャンボジェット機(ボーイング747)の停まる空港の様子、6車線くらいの道路や首都高速を流れる車の様子が映し出される。それが再び、原爆投下の写真、空襲で焼け野原となった東京の写真へと移ってゆく。

 

そして聖徳太子がデザインされた旧・一万円札など紙幣の映像へと移り、最後は夕映えの中に黒く聳える西新宿の高層ビル群がエンディングである。当時の高層ビルは西新宿だけでまだ数えるほどしかないが、この映像が長く私の心に焼き付いている。