新・英語の散歩道(その27)-コウスティング(Coasting)-正常な退行現象 | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

渡部昇一「知的生活の方法」を読み終えた。この中にコウスティング(Coasting)という概念が出てくる。以下は同書からの抜粋である。

 

 

 

動物と人間の大きな違いは、人間が知的生活をなしうるという点である。この知の働きにより、人間は動物の知らない自己実現の喜びを知るとともに、またそれからくる苦悩も多く持つ。 ……… 人間の知の向上への努力は、しばしば休息、あるいは心理学で言う「退行現象」につながる場合がある。

 

……… 知の働きによる自己実現は、しばしば奇妙な退行現象を示す。睡眠を求め、休息を求めるのはありふれたことだが、過度に保護を求めたり、奇妙な空想にふけったり、ついには平安を求めるあまり、「死」、つまり「絶対の平安」を求めたりするのである。 ……… この退行現象の極端な例ともなれば、完全な自閉現象を起し、母の胎内にいる子供のような格好になって座っているだけになる。

 

……… しかし退行現象はそれ自体が病的なものではないのであって、それは正常な現象であることを認めなければならない。そして正常な退行現象を持つことが病的な退行現象に入ることをふせいでくれると言ってよいであろう。この正常な、また健康な退行現象を、コウスティング(Coasting)と言う

 

Coasting という単語は、元来舟が大洋に乗り出さずに沿岸航海をすること、あるいは、自動車がアクセルを踏むのをやめて惰力で走ったり、飛行機がエンジンを止めて滑空することなどを言う。これを人間に当てはめた場合は、知的な努力をやめて、しばらく無努力の状態にもどることである

 

長期にわたって知的生活を送ることに成功した人は、本能的に健全な退行、つまりコウスティングをしているようである