七夕の夜から曇りだし雨となった。まだまだ夏空は遠い。
中国に「嫦娥奔月(じょうがほんげつ)」という神話がある。これは七夕の織女と牽牛に並んで天体に絡んだかぐや姫伝説に似たもので、主役の女性の名前は「嫦娥(じょうが)」という。
「嫦娥」は夫の「后羿(こうげい)」が仙女「西王母(せいおうぼ)」から貰った不老不死の霊薬を盗み月へ逃げ去り、寂しく暮らすことになった。終には月の女神となった、というストーリーである。
季節はまだ先だが、中国で仲秋節に月餅(げっぺい)を供える風習の起源となったらしい。この伝説に因んだ以下の漢詩を見つけた。
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「嫦娥」 李商隱
雲母屏風燭影深 雲母の屏風(へいふう)燭影(しょくえい)深く
長河漸落曉星沈 長河漸(ようや)く落ち暁星(ぎょうせい)沈む
嫦娥應悔偸靈藥 嫦娥は応(まさ)に霊薬を偸(ぬす)みしを悔ゆるなるべし
碧海青天夜夜心 碧海青天(へきかいせいてん)夜夜(やや)の心
(現代語訳)
雲母を張った屏風に蝋燭の灯が深く映り、いつの間にか天の川は傾き金星も沈んだ。
こんな寂しい夜、月の女神嫦娥は不老不死の霊薬を盗んだことをきっと後悔していることだろう。この碧い海のような夜空を憂いに満ちた気持ちで見上げながら。