「境界点・限界点」 “threshold” | 流離の翻訳者 青春のノスタルジア

流離の翻訳者 青春のノスタルジア

福岡県立小倉西高校(第29期)⇒北九州予備校⇒京都大学経済学部1982年卒
大手損保・地銀などの勤務を経て2008年法務・金融分野の翻訳者デビュー(和文英訳・翻訳歴17年)
翻訳会社勤務(約10年)を経て現在も英語の気儘な翻訳の独り旅を継続中

ここのところ70年代の音楽の記事が続いたが、週も変わったので軌道を元の状態に戻すことにする。


「以前から気になってはいるが調べきれていない単語」というものが結構ある。それは翻訳をやる人であれば皆同じだろう。そんな単語のうち今日は”threshold”について取り上げる。


実はこの単語との出会いは古く、高校の頃の実力テストであった。長文問題の中に”threshold”は現れた。たぶん高校生にとって難易度が高い語であったため以下のような脚注が記載されていた。


* “threshold” = “beginning” or “entrance”


たぶん英文は”At the threshold of the twentieth century, ・・・ のようなものだったと記憶している。若い頃の新鮮な頭脳で記憶したものは恐ろしいくらいに覚えていて、この脚注の“beginning” or “entrance”を頼りにきちんと辞書も引かずに30年以上が経過していた。


・・・・


ところが先日このような英文に遭遇した。


In most people, it (= the process) takes a combination of several factors, building up over time, to reach an individual’s neurological threshold.

「ほとんどの人の場合、そのプロセスは、数個の要因が組み合わさって、時間とともに進行し、各個人の神経の入口(?)に達する」


実はこの文書は(偏頭痛)”migraine”の発症の過程について書かれたものだったが、果たして”threshold” = “entrance”で良いのか?もちろんこれは明らかに誤りである。


“Threshold”には《心・生理》の分野で「(刺激や変化に対して反応が出現・移行する)境界点・限界点」の意味がある。


従って上記英文の和訳は「ほとんどの人の場合、そのプロセスは、数個の要因が組み合わさって、時間とともに進行し、各個人の神経の限界点に達する」となる。


因みに上記の英文は分詞構文の使い方が不適切であり、また結果を表わす不定詞を使っていて非常に読みにくい。以下のように変更して意味をとる方がわかりやすい。


In most people, it (= the process) takes a combination of several factors built up over time, and reaches an individual’s neurological threshold.


・・・・


最後に英英辞典の定義を確認しておく。


“Threshold”

1) The threshold of a building or room is the floor in the doorway or doorway itself.

「建物または部屋の出入口の床、または出入口それ自身」


2) A threshold is an amount, level, or limit on a scale. When the threshold is reached, something else happens or changes.

「一定の規模における量、水準または限界で、その値に到達すると何かが起こるまたは変わるところ」


3) If you are on the threshold of something exciting or new, you are about to experience it.

「何か興奮すること、または新しいことをまさに経験しようとしてる状態または地点」