その14(№6094.)から続く

なかなか更新ペースが一定せず、誠に申し訳ございません。

「車体傾斜車両列伝」と銘打って参りましたが、肝心な車両をひとつ飛ばしてしまいました。
というわけで、今回はその「飛ばしてしまった」車両、JR東海の383系を取り上げます。

383系の登場の経緯は、「しなの」などに運用していた381系の置換えのためでした。もっとも、383系の試作車の登場が平成6(1994)年であり、381系を全て置き換えたのがその翌々年ですから、置換えのタイミングがいかにも早いように思えます。しかし、「しなの」用の381系は、一部を除いて昭和48(1973)~50(1975)年に投入されたもので他の系統のものよりも古いこと、平成10(1998)年初頭に長野冬季五輪の開催を控えていたことから、新たに「しなの」用として開発・投入されたものです。

383系のスペックは以下のとおり。

① 車体は、軽量化のためステンレス製とする(ただし先頭部のみ普通鋼製)。
② 車体傾斜角度は5度、最高速度は130km/h(曲線通過時本則+35km/h)。
③ 制御装置はVVVFインバーター制御を採用(素子はGTO)。
④ 車体傾斜システムは、曲線通過時の車体傾斜にコンピューター制御を取り入れた制御付き自然振子式を採用。
⑤ 台車には自己操舵機能を搭載、パンタグラフは通常の仕様(E351系のような架線に追従するための装置はない)。
⑥ MT比率は1:1とし、M車に全ての走行機器を搭載。
⑦ 車体のカラーリングはキハ85系と共通。
⑧ 編成は長野方を非貫通・流線型のグリーン車を先頭とした6R、長野方先頭車がグリーン車であることは同じだが貫通構造とした4R、普通車のみの増結用2Rがある。なお名古屋方はいずれも貫通構造。

車体を軽量ステンレス製とし(①)、さらにカラーリングをキハ85系などと共通化した点は(⑦)、「JR東海の在来線特急」としてのブランドイメージの共通化を意図したものといえます。ただし383系は車体を傾斜させることから、車両限界に抵触しないようキハ85系に比べ裾部が大きく絞られています。
振子作動時の傾斜角度は381系と同じですが(②)、異なるのは制御装置と最高速度(③)、さらに「制御付き自然振子」を採用したことと(④)、操舵台車を履いていること(⑤)です。「制御付き自然振子」の採用は、381系使用列車について曲線区間への突入・脱出の際に車体の傾きとのタイムラグが生じ、それが乗り物酔いを誘発していたことから、乗り心地と快適性の向上のためです。また操舵台車は、JR東海において平成3(1991)年からモハ380で現車試験を重ねてきたものと同じ方式が試作車に採用されたものですが、進行方向前側の支持剛性を柔らかくし、さらに可変機構を搭載したものでした。これは381系などで横圧が常に進行方向前側の輪軸の方が大きかったからですが、この方式だと横圧の平均は軽減できたものの、各輪軸の横圧発生が常に進行方向前側が大きいとはいえなくなりました。そこで詳しく分析し直した結果、常に車両端側の横圧が大きくなっていたことが判明したことから、車両端側の支持剛性を柔らかい状態で固定し可変機構を省略した改良型を量産車に採用しました。試作車も後に量産車と同じ方式に改められています。
パンタグラフはシンプルなシングルアーム式が採用されましたが、こちらはE351系などとは異なり、架線に追従させるための装置は搭載していません。理由は既に381系投入時に車体の傾斜に合わせた架線の張り方がなされているためで、車両側の対応が不要だからです。ただしそれと引き換えに、振子を作動させることができる区間は名古屋-松本間のみと限られたものにならざるを得ません(これは381系と同じ)。そしてパンタグラフの折り畳み高さも低く抑えられており、振子を作動させなければ身延線にも入線が可能となっています。
編成構成は、「しなの」が長野方先頭車をグリーン車とすることから、基本編成(6R)は非貫通構造として眺望に配慮された形状となりました。同じようにグリーン車を連結する4Rのグリーン車が貫通構造なのは、6Rの増結用として使用することが考慮された結果です。なお、6Rと4Rで走行キロ数に極端な差が出ないように、所定6両の「しなの」運用でも、時折4R+2Rでの運用があります。流石に2Rのみを何本かつなげた「ブツ6」などは臨時列車でもなかったようですが(もしかしたら管理人が知らないだけで存在したのかもしれないが)。
最後に383系の面白いところは、国鉄~JR各社の他系列であれば必ずといってよいほど存在する偶数形式が存在しないこと。つまり「〇〇382」は存在せず、全ての形式が「〇〇383」で統一されていることです。

383系は試作車として6Rの1本が平成6(1994)年に登場、各種試験走行に供された後、翌年のGWから臨時「しなの」で営業運転を開始しました。平成8(1996)年から順次量産車が落成、この年の12月のダイヤ改正で「しなの」の定期運用を全て置き換えました。当時あった大阪直通列車にも当然充当され、383系が京都駅や大阪駅で見ることができるようになっています。一時期は夜行急行「ちくま」にも充当されていましたが、これは平成15(2003)年で終了しています(『ちくま』が臨時列車に格下げされたため)。
それでは381系が全車退役になったかといえばそうではなく、一部は波動用に残され、臨時「しなの」や臨時に格下げされた「ちくま」、変わったところでは飯田線の「伊那路」にも充当され、元気なところを見せていました。しかし381系は、平成20(2008)年までには全て廃車となってしまいました。それでもクハ381-1が名古屋市の「リニア鉄道館」に保存され、往年の雄姿を見ることができます。

383系は「しなの」として名古屋-松本-長野間を中心に、一部は大糸線方面にも乗り入れ、さらに1日1往復の大阪直通列車にも充当されました。しかし381系の時代にはあった妙高高原乗入れ(長野止まりの列車の臨時延長)は、国鉄分割の結果か実施されずに終わっています。他方、JR東海の在来線特急が乗り入れるとして注目された大阪直通は、平成28(2016)年3月のダイヤ改正限りで廃止となり、同系が名古屋以西及びJR西日本の管内路線を走ることはなくなりました。大阪乗入れからちょうど20年で、3大阪駅や京都駅で383系を見ることはできなくなっています。
他方で、多客期の臨時列車ですが諏訪方面への乗入れもなされたことがあり、このときは「あずさ」のE351系などとの競演が鉄道趣味界の大きな話題となりました。

木曽路で健脚を誇っている383系ですが、JR他社で行われているリニューアルなどは行われないまま、もうすぐ登場から30年が経とうとしています。キハ85系は、登場33年でハイブリッド車HC85系に置き換えられて退役しました。383系もそろそろ…とも思いますが、同じ中央本線でも東側の「あずさ」は振子車両の使用を止めてしまった(E351系が全車退役した)ことから、もし383系の後継車が登場するとなれば、振子車両となるのか、あるいは振子以外の車体傾斜システムを備えた車両となるのか、そこも注目されます。

さて、日本国内における振子車両は、前回取り上げたJR西日本のキハ187系以降、実に20年以上も新形式が登場することはありませんでした。最近になってJR四国で2700系が登場し、沈黙が破られたわけですが、そのように「長い沈黙」に陥った理由はどこにあるのか、そのことを次回以降に見ていきたいと思います。

その16(№6106.)に続く