その7(№5158.)から続く

今回と次回は、グリーン車の半世紀の番外編。今回は国鉄~JR以外のグリーン車、あるいはそれに相当するサービス(以下『アッパークラスサービス』という)を取り上げます。
グリーン車又はアッパークラスサービスを導入している、あるいはかつて導入していた鉄道事業者は以下のとおりとなります。

1 導入している事業者
 ① グリーン車そのもの(1-①)…伊豆急、智頭急行、土佐くろしお鉄道
 ② アッパークラスサービス(1-②)…近鉄、南海(名鉄も?)
2 かつて導入していた事業者
 ① グリーン車そのもの(2-①)…名鉄、北越急行
 ②アッパークラスサービス(2-②)…小田急(※)
  ※ 小田急は線内特急ではグリーン車と称していなかった
3 その他
 かつてグリーン車が乗り入れていたが、自前のグリーン車を持たなかった事業者としては、伊豆箱根鉄道とえちごトキめき鉄道がある(ただし後者はグリーン料金非設定)。
 京都丹後鉄道と伊勢鉄道はグリーン車が乗り入れているが、後者は自社線内独自のグリーン料金を設定していない。
自社線内完結列車の場合はグリーン車扱いとされないが、JR直通列車の場合のみグリーン車扱いとされる例として、東武100系がある(グリーン車扱いは個室のみ)。
 富士急行では8000系(元小田急20000形)の車号に「ロ」を採用しているが、同社ではグリーン車と呼んでいない。

グリーン車、あるいはそれに類するアッパークラスサービスは、独自のサービスとして導入した近鉄と南海を除き(これに名鉄が含まれるかは、後述のとおり議論の余地がある)、全て国鉄~JRとの直通運転であることが特筆されます。自前のグリーン車を導入した事業者は、伊豆急行・名鉄・土佐くろしお鉄道・智頭急行・北越急行・小田急の6社。もっとも、これらの中でも、土佐くろしお鉄道と北越急行は、JRの同型車を導入しており(車両使用料の精算を容易にするために導入された車両)、その意味では独自のカラーはありません。智頭急行も、横3列という特急用として申し分のないアコモデーションを誇っていますが、大変失礼ながら、ここでは特筆すべきことはないような。
グリーン車をかつて導入していた事業者として、名鉄が挙がっているのは意外な感じもしますが、これは国鉄(当時)高山本線への直通列車に充当されていたキハ8000系に、一等車改めグリーン車(キロ8100・8150)が存在したから。もっとも、キロ8100・8150は、利用率の低迷から昭和45(1970)年には普通車に格下げされているため、名鉄路線内でグリーン車として営業運転がなされた期間は、極めて短いものとなっています。
名鉄なきあと、国鉄以外で自前のグリーン車を保有する事業者として、孤塁を守ったのは伊豆急行。同社では普通列車用に100系を運用していましたが、その100系にグリーン車(サロ180)がいました。このサロ180は、回転クロスシートを装備した、国鉄113系のサロ110・111と同レベルの車両でしたが、冷房を搭載して固定窓とされ、しかも2列1窓の大窓で、サロ110・111よりも優美なスタイルを誇っていました。
前年の「リゾート21」の登場により、優等車両としての存在意義が危うくなったサロ180は、内装はそのままで普通車に格下げされますが、その年、サロンルームのような内装を備えた「ロイヤルボックス」サロ1801が登場します。これはグリーン車扱いとされましたが、専属アテンダントによる軽食・茶菓の販売サービスなど、一般グリーン車とは一線を画するサービス内容で、料金も一般グリーン車とは明確な差がつけられていました。「ロイヤルボックス」は「リゾート21」にも連結され、一時は全編成に連結されるなど好評を博しましたが、バブル崩壊と「美白ブーム」到来による海水浴客など観光利用者の激減とともに「ロイヤルボックス」も順次編成から外され、「リゾート踊り子」として東京へ乗り入れるときのみ連結するように改められ、乗車の機会は限られてしまいました。
近鉄と南海のアッパークラスサービスは後述するとして、この事業者にグリーン車が出現したのかと、当時の鉄道趣味界が驚いたのが小田急。これは、気動車時代から小田急車の片乗り入れだった「あさぎり」を沼津へ延伸し、かつ片乗り入れから相互乗り入れへ変更の上特急化するというもので(JR線内は急行だった)、JR東海と小田急が、アコモデーションを大筋で共通化した車両を用意しました。JR東海は371系、小田急は20000形RSE。20m級大型車の7連のうち、3・4号車を2階建てとし、グリーン席を2階部分、普通席を1階部分に置くという構成は共通していました。両者とも2階建て車両ならではのアイポイントの高さと、ゆったりした座席配置、そして小田急ならではの「走る喫茶室」の流れを汲むシートサービスなどにより、「あさぎり」では大好評を博しました。ただし、20000形の線内特急運用、例えば「はこね」などでは、グリーン席(小田急では線内特急の場合『スーパーシート』と呼んでいた)の利用率はあまり振るわなかったようです。その後、バブル崩壊などの要因により「あさぎり」そのものの利用率も低下し、平成24(2012)年、御殿場までに短縮の上小田急車の片乗り入れに戻り、列車名も「ふじさん」となっています。このときJR371系とともに20000形も退役しましたが、両社とも富士急行に移籍しているのは面白いところです。

これら以外は、国鉄~JRからグリーン車連結列車が乗り入れてくるものですが、伊豆箱根鉄道は、修善寺直通の急行列車にグリーン車が連結されていました。しかし利用率低迷のためか、昭和50(1975)年3月のダイヤ改正で修善寺直通列車は全車普通車になり、その後列車が185系化され「踊り子」になっても、修善寺直通は全車普通車のままとされました。

以上とは別に、国鉄~JRのグリーン車の系譜とは全く異なるアッパークラスサービスとして、近鉄と南海の例が挙げられます。
近鉄は昭和63(1988)年に、名阪ノンストップ特急に「アーバンライナー」21000系を導入した際、普通席よりも上のクラスの車両として「デラックスシート」を導入しました。普通席(レギュラーシート)が横4列であるのに対し、横3列とJRのグリーン車並みの専有面積の広さと居住性が売りでしたが、追加料金は300円(当時)。コーヒー1杯分の追加料金でグリーン車並みの席に座れると、デラックスシートは大好評を博しました。デラックスシートは「アーバンライナー」以外にも、「伊勢志摩ライナー」やリニューアル後の「さくらライナー」に導入されています。その後も近鉄では50000系「しまかぜ」、80000系「ひのとり」といったハイグレードな特急車を導入、これらはJRでいえばグリーン車、さらに上のグランクラス相当ともいえるサービスですが、ここではそれらを指摘するにとどめます。
南海は平成6(1994)年、関西空港開港を機に空港アクセス輸送にも取り組むこととなり、そのための特急「ラピート」用の車両として50000系が世に出ました。同系には「スーパーシート」が用意され、近鉄と同じ横3列のゆったりした座席ですが、追加料金も200円と安く、気軽に利用できます。実はこの50000系のスーパーシートでは、「成田エクスプレス」JR253系グリーン車と同様、ミニバーによるドリンクサービスが行われましたが、「成田エクスプレス」と同じ理由で、「ラピート」運転開始後、ほどなくして取り止められました。
議論がありそうなのが名鉄。というのは、名鉄では特急の指定席車を「特別車」と呼称しているところ、「特別車」はJRにおけるグリーン車の正式名称「特別車両」とほぼ同義だからです。確かに名称の点はありますし、自由席車よりもサービスレベルが上なのは確かですが、あれを「アッパークラスサービス」というのは、ちょっと違うような気がします。「座席指定サービス」という意味での「特別車」なのではないかと。名鉄特急と同じような形態の列車として、南海の「サザン」がありますが、あれもあくまで指定席車でしかありませんから。

次回は、グリーン車の変わり種を取り上げます。

その9(№5178.)に続く