第77回ベネチア国際映画祭で最高賞にあたる金獅子賞、第45回トロント国際映画祭でも最高賞の観客賞を受賞、第93回アカデミー賞では計6部門でノミネートされ、作品、監督、主演女優賞の3部門を受賞した
『ノマドランド』(劇場公開日 2021年3月26日、クロエ・ジャオ 監督、ジェシカ・ブルーダー原作『ノマド 漂流する高齢労働者たち』)を久々に映画館で観ました。60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、世界的不況を招いたリーマンショックによって企業は倒産、住み慣れた自宅まで失い、キャンピングカーに荷物を積み込み、車上生活をしながら過酷な季節労働の現場を渡り歩くことを余儀なくされる。これが現代アメリカの政治と経済の実情です。没落した貧困層は、嘆くより他に声を上げる手段を持っていない。経済的貧困に陥っている人々は、都市の中ではホームレスとして街中の路上生活でしのぎ、現代の「ノマド(遊牧民)」として西部をさすらう放浪で人生をなんとか生きながらえています。この作品はノマドとして放浪する特異な人々を描いたロードムービーともいえます。私は、この清く美し質素な人々の生き方に魅入りました。多分広大な荒野を持たない日本ではノマドはあり得ないだろう、アメリカらしいアメリカだけの生活ですーネ・・・。
映画は、声なき人々の代弁者として、映像で表現する手段です。華やかな女優やダンディーな男優を億万長者にするためにあるのではないデス。或は、TVコマーシャルに出演して商品の宣伝をして契約金を設けるために映画に出演するのではないデス・・・ネ!!!この映画は、映画の存在意義の襟を正す映画でした。日本映画界には、なかなかこんな監督は現れないな・・・。
「ハウスレス」のためにアメリカを漂流する高齢労働者たちが働く場所は、キャンプ場管理の清掃スタッフ、ファーストフード店の店員、アマゾンの配送センターなどの雑用仕事を転々としながら、夜になるとワゴン車に帰る。時々同じ車上生活をする仲間たちと集まり雑談し、不用品を持ちより物物交換したりする。アメリカの底辺に生きる人たちと出会い、睦まじくシミジミ話し、「また会いましょうー」といって別れと再会を祈る。この映画では特にアマゾンの物流センターが頻繁に登場します。季節労働者の需要のある時期に、あちこちのアマゾンの物流センターを渡り歩いているようだー。定住せず定職を持たず安定した家族も持たない孤独な放浪者が多いデス。そこにどんな生きる楽しさがあるのだろうか・・・???ファーンがある場所で、奇岩が広がる荒野を一人風景を眺めながら散策するシーンがあります。過去の自分の記憶を回想し、自然の風景と対話する姿は、生きていることの最大にして最小限の楽しさなのかもしれないなーと私は感じました。ある日ファーンは、息子の家族と共に住み始めたノマドの仲間であった男性の自宅を訪れる。彼はファーンが好きだから一緒にここに住まないかーと誘う。けれども彼女は、再びキャンピングカーに乗って荒野に消えてゆく。愛される亡くなった夫以外の男性と屋根のある家で暮らすよりも、自由な荒野の車上生活を選んだのかー、ア~そんな選択をするのか、と私はため息をつきました。
アメリカ国内でもアマゾン物流センター内の労働環境について労働争議があったことを、以前ニュースで知っていました。AMAZONEの物流センターで働く非正規労働者たちが、自分たちの労働環境に対して改善を求める手段として「労働組合」の組織化を要求したようです。詳しく言うと、米アラバマ州ベッセマーの物流倉庫の従業員らが労働組合「Retail, Wholesale and Department Store Union(RWDSU)」への参加の是非をめぐって行った投票Tがあり、従業員3200人以上が郵便投票した結果、1700人以上が反対票を投じたので、労組結成は否決されたようです。またAmazonは、環境や労働の問題について公然と会社批判してきた、労働環境に改善を強く求める労働者のエミリー・カニンガムとマレン・コスタ氏をの二人を解雇しました。全米労働関係委員会(NLRB)は、2人の解雇が違法な報復行為であるとの判断を下した。この裁可が今どうなっているのかよく分かりません。恐らくアマゾンへ仕事を求めて渡り歩く季節労働者にとって、アマゾン物流センターの単純肉体労働は、ハードで賃金は安いのだろうーナ。それは日本のアルバイト労働やパート労働とも多分同じだと推測します。彼らの労働と物流センターは相互依存の関係だろうが、会社からの相当の軋轢と干渉があっただろうーと想像します。だから、こんな映画が制作されたのも、一端の理由なのだろうーネ。
これまでアメリカの白人は、大学卒業のインテルたちによる高い給料を手にする一流企業の上流階級と、高校卒業で製造業で働く下流階級に分断されていました。例えば『ウォール街』(オリバーストーン監督)という映画で、大学を卒業しながら、証券会社で営業マンになったバド・フォックス(チャーリー・シーン)は、貧しい生活から出世を夢見て、投資家ゴードン・ゲッコーのオフィスに憧れる・・・。アメリカの在る時代には証券と金融関係で一獲千金の富豪になったものや不動産で成功した者たちが上流階層として君臨していた。半面今の現状は、経済不況や金融危機、産業構造の変化によって、アメリカ社会でこれまでマジョリティとして生活していた中流階級が没落して下層階層に落ちていった。更には下層階層でも生活に心配のないブルーワーカも、自動車産業の景気が傾いて、例えば「ラストベルト」のデドロイトの工場労働者は、失業して一気にブアーホワイトに転落していった・・・。トランプが支持を集めて彼を2016年アメリカ合衆国大統領選挙に当選させたのはこれらアメリン社会の脱落者とプアーホワイトでした。貧困に陥る白人たちの苦境に対して、新しく大統領になったバイデンは、失業対策と貧困政策に200兆円と言う膨大な救済予算を計上した。この『ノマドランド』は、アメリカの下層階級の中の人々の貧しくとも充足している車上生活の人々を描いているといえます。
アメリカのアカデミー賞は確実に変容前進しています。過去には決して黒人の俳優も監督も人種差別により排除され、秀作受賞作品も名演技の黒人俳優も排斥されてしまっていました。それに対して非難と変革がありました。今回の第73回アカデミー賞授賞は更に変容していました。中国出身のクロエ・ジャオが脚本・編集・製作・監督を務めた『ノマドランド』が作品賞・監督賞・主演女優賞の主要3部門を独占しました。ジャオ監督は、有色人種の女性として初めて、受賞するという快挙を成し遂げました。こんなことはアカデミー賞史上初めです。これからハリウッドの映画がどのように変革されるのか、私は楽しみにしています。私としては、「難民」の受難映画が見たいですーネ。日本の難民申請のように、日本に亡命しても本国に帰還させられる「難民」に対する人権侵害の国策を徹底的に非難する映画を邦人監督に期待したいです。マアーネ、映画監督も既にもう日本社会の上級階級になってしまったので、今更、保守政権に反旗を翻す反骨精神など摩耗してしまった・・・か。
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