1月中旬の特選「東京家族」★映画のMIKATA【4】山田洋次監督★映画をMITAKA… | 流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

流石埜魚水の【特選映画】、★映画のMIKATA★映画をMITAKA・・・

都市生活者の心と言葉を掌にのせた小説、電脳化社会の記号とイルージョンを巡る映画、都市の孕むシンボルと深層を探るエッセイ、街の風景と季節の色を彩る短歌…。小説と映像とエッセイと短歌をブログに・・・掲載します。

◆映像情報
上映時間 146分/劇場公開(松竹)/初公開年月 2013年1月19日/
オフィシャル・サイト
http://tokyo-kazoku.jp/
◆スタッフ
監督: 山田洋次/プロデューサー: 深澤宏。矢島孝/脚本: 山田洋次。平松恵美子/撮影: 近森眞史/美術: 出川三男/編集: 石井巌/音楽: 久石譲/照明: 渡邊孝一/ 録音: 岸田和美/スペシャルアドバイザー: 横尾忠則/
◆キャスト
橋爪功:平山周吉/吉行和子:平山とみこ/西村雅彦:平山幸一/夏川結衣:平山文子/中嶋朋子:金井滋子/林家正蔵:金井庫造/妻夫木聡:平山昌次/蒼井優:間宮紀子/小林稔侍:沼田三平/風吹ジュン:かよ/茅島成美:服部京子/柴田龍一郎:平山実/丸山歩夢:平山勇/荒川ちか:ユキ


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FREE1月中旬の特選映画をアップロードします。今月は公開映画がまとまって多いので分けて掲載します。映画館で観賞した映画は3本でした。特選映画にベル東京家族」を選びました。以前に山田監督作品をこの映画ブログでコメントしたことがありましたが、基本的な視点は変わらなかったです。やはり、メインテーマは、「家族とは何なのか?…」です。日本の近代化に翻弄されて故郷と家族を失い、その先に、果たして何があるのだろうか?…。


11本目は、瀬戸内海の島で生活する老夫婦の平山周吉(橋爪功)と、とみこ(吉行和子)が、東京で個人病院「平山医院」を開いている長男・幸一(西村雅彦)の家族と、美容院「ウララ」を営む長女の滋子(中嶋朋子)の家族、それから、舞台美術の仕事でなんとか生活するフリータのような次男の昌次(妻夫木聡)たちと久久に再会する場面をつなげた「東京家族」(山田洋次監督)でした。


もはや田舎の親元から離れて、家族が東京でバラバラに生活する平山家の久久の家族再会の数日を描いた映画ですー。でも山田洋次監督のテーマである都市化によって翻弄される≪家族≫の絆の崩壊そのもの、もう少しテーマを限定して絞るならば、戦後昭和の経済的繁栄と、地方と都市との関係性の中で日本的家族制度が崩壊する姿、日本人の心の分解を真正面に捉えた映画です。勿論、小津安二郎監督の名作「東京物語」(笠智衆主演、1953年公開)を意識したリメイク版であることはご承知のとおりですが、小津安二郎の描く≪家族≫が、戦前から戦後という日本人の激動と変転の「時代性」を色濃く刻印した雰囲気を漂わせながら、どちらかというと、日本の近代化と、経済構造の変化によって、家族が離反し、子供の成長・独立から、一つの家族形態が崩壊し、家族の結束点であった「母」の死によって、ある家族が終焉するところに力点がおかれ、描かれていたのに対して、山田洋次の≪家族≫は、「母」の生前に、仕事も結婚も宙ぶらりんな次男昌次が、結婚を約束した相手「紀子」(蒼井優)を母に紹介し、その後、母「とみこ」の葬儀のために平山家の故郷の島へ同伴し、父・周吉や兄弟縁者たちからも家族の一員として認められるハッピーエンドが特長でした。つまり、都市化核家族化の近代的家族が、新しい家族を再・誕生させる、というこの一点だけでも、「東京物語」と「東京家族」との違いは大きい思ってます。


今回、「東京家族」鑑賞の後にもう一度改めて小津安二郎監督のモノクロ映画「東京物語」を見ましたー。確かに「東京物語」と「東京家族」には、瑣末な細部に何点かの山田流の脚色があります。まず平山家の故郷は広島・尾道でしたが、それに対して、山田監督が舞台として選んだ故郷の地は、瀬戸内海の小さな島でした。恐らく瀬戸内海小島を舞台に、石材運搬船業を廃業して、広島へ移住する『故郷』(1972年公開。井川比佐志、倍賞千恵子、笠智衆出演)の延長線上にあるからだろうーと、私は確信しています。ただ、肝心な違いは、小津版「東京物語」には、平山家次男・昌二の戦争未亡人「紀子」の存在があった。それに対して、「東京家族」では、母・とみこが一番気に掛けていた点は、次男・平山昌次と間宮紀子の二人の行く末と、小さな家族の誕生と小さな幸せでした。昨今、NHKのドキュメント番組によって老人の孤独死を取材した「無縁社会」、終の棲家ないー身寄りのない孤独な老人の「漂流老人社会」という言葉が、急速にすすむ高齢化社会の社会現象として浮上していてます。日本的精神構造の基盤だった、「地縁」「:血縁」が崩壊した後に現れた都市化の中で翻弄される「東京家族」の姿もまた、ここに描かれています…ね。これもまた山田版「東京家族」の特長です。妻を旅先で失った後、故郷にたった一人で帰った平山周吉の姿は、大きな家にポツリと孤独で哀れでした。しかしここ「故郷」には、隣近所の「地縁」の完全な崩壊はまだなかったです。私は推測します。山田監督が、近代化の過程で翻弄され解体した村落共同体的「故郷と家族」のその先にどんな姿が描かれたのか…? 「血縁」と「地縁」は分解したが、しかし、東日本大震災後、福島原発汚染以後の現実日本で、東京の周縁で誕生する男女の新しく自由な「縁」、新しい共同体ー、ボランティア活動によって繋がるゲマインシャフトが予兆的に描いているのが、僅かな≪希望≫なのかな…と思いました。


22本目は、孤独なジョン(マーク・ウォールバーグ)がクリスマスに大きなテディベアの人形をプレゼントされるが、その人形が人間並みに心を持ち、悪戯や冗談を言う「魂」が宿り、ブラックユーモアの飛び交う「TED」(セス・マクファーレン監督)でした。それから27年後、ジョンはレンタカー会社のサラリーマンになり、恋人ロリー(ミラ・クニス)が現れ、テディベア「TED」と三人で同棲生活をしていた。ところが、中年となり恋人がいるジョンにとって、いまだ「TED」は、一緒にソファでテレビ映画を楽しみ、マリファナを吸い、依然あきれた親友でしたー。ところが恋人ロリーに、自分とテッドのどちらかを選べと迫られるー。


33本目は、動物園の生きもの達を積み込み、インドのマドラスからカナダのモントリオールへと出航した日本の貨物船ツシマ丸は、航行中に大嵐に襲われて難破沈没する。生き残ったのは、たった一人の少年と一匹のどう猛なベンガルトラと、わずかな非常食のビスケットと水の缶。16歳の少年パイ(スラージ・シャルマ)とトラが共に救命ボートで漂流するサバイバルストーリ「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日 」(アン・リー監督)でした。


2002年ブッカー賞を受賞したヤン・マーテルのベストセラー小説「パイの物語」を映画化したもので、映画の中でも、著者らしき青年がパイと食事を共にしても、船が沈没した後に227日間洋上を漂流して、メキシコ湾の浜辺に漂着する顛末を取材する姿が登場します。やはりこの映画の魅力は、小さなボートの中で一瞬の油断も隙も許されないギリギリの生存条件に置かれながら、獰猛なトラと格闘しながらも「自然」と共生する少年の勇気と知恵が一つあります。もうひう一つは、漂流しながら遭遇する飛魚やクジラや光るくらげやイルカたちー、海洋の魚や生きものたちの雄大で優美な輝きがありました…。広大な海上では、ちっぽけな人間の命など一瞬に飲み込んでしまう「自然」に対して、神に祈り感謝する謙虚な姿がありました。洋上に浮かぶ海草と潅木が密集した小さな島ー、実は夜になると人間の肉体でも溶かす強烈な酸性の毒を吐く肉食の島ー、謎に満ちた島を埋め尽くす無数の小動物・ミィーヤキヤットの生態が実に神秘的で美しいです…。冒険サバイバル映画というよりも、むしろ海洋冒険ロマン映画でした。



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