「そして名探偵は生まれた」 歌野晶午 2006-132 | 流石奇屋~書評の間

「そして名探偵は生まれた」 歌野晶午 2006-132

「葉桜・・・」「女王様と私」「世界の終わり、あるいは・・・」 と結構良いものを提供していただいている歌野氏の中編集ですね。
やっぱり歌野氏、ただの”王道”推理小説じゃありませんでした。

ということで「そして名探偵は生まれた」読了しました。

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歌野 晶午
そして名探偵は生まれた
出版元
祥伝社
初版刊行年月
2005/10
著者/編者
歌野晶午
総評
20点/30点満点中
採点の詳細
ストーリ性:3点 
読了感:3点 
ぐいぐい:4点 
キャラ立ち:3点 
意外性:4点 
装丁:3点

あらすじ
三月には珍しい雪の日、伊豆の山荘で惨劇は起こった。新興企業アラミツ・グループが所有する保養所・萩宮荘で、若き総帥・荒垣美都夫が撲殺されたのだ。ここは歴代の所有者が次々と不幸に襲われたという呪われた山荘だった。殺害現場となったホールは完全な密室状態だった。外部からは争う物音が確認されたが、現場に入ってみると荒垣の死体しかなかった。ホールの窓の外は降り積もった雪が逃走した者がいないことを証明している。犯人はどこへ消えたのか?社内懇親会で集められた二十人の中に犯人が?事件の解決に名探偵・影浦逸水が乗り出したが…。『生存者、一名』『館という名の楽園で』を収録した密室トリック三部作。 <<Amazonより抜粋>>



タイトル表題作を含む3つの中編が所収されています。
”本格の王道”とも呼ばれる「雪の山荘」「孤島」「館」という3つのシチュエーションの3作です。

「そして名探偵は生まれた」
これは、オチそのものよりシチュエーション自体に、やられたって思いました。
難事件を解決する名探偵は、実は儲けが少ないというジレンマがあるという告白があり、ちゃんと仕事として対価が払われない限り事件を解決しようとはしません。
そんな不遇な名探偵がいて、助手がいて、事件が起きて、そんな事件を解決するという展開です。
トリック自体も非常に解り易く、普段の推理小説でも上級でありながら、それでいて普段のラストではありません。
その辺りの「余裕っぷり」がいいですね。

「生存者、一名」
これは読み終わってタイトルの妙に気がつきました。
新興宗教団体による駅の爆破事件。
その実行犯である6名が、孤島に逃げ込むところからストーリがはじまります。
その後は、お馴染みな展開が待っております。
要するに「そして誰もいなくなった」的展開となり、まさにタイトルの通り「生存者、一名」ということなのですが、ここに大きなトリックがあるわけですね。
最後の最後まで含みを持たせる辺りも、ある意味で技量だと思いました。

「館という名の楽園で」
N大学の探偵小説研究会の同窓のメンバーが、同じくメンバーだった冬木から「招待状」をもらいます。
その「招待状」とは、館の完成に先立った招待状であり、そこで「探偵ごっこ」をしようと提案を受け、メンバーはしぶしぶ了解し、館での「探偵ごっこ」がはじまるわけです。
この物語のテーマは、やっぱり館のトリックだったりするわけです。
ウィリアム館とエドワード館とマシュー館のエピソード(架空)を、伏線にしたトリックなのですが、さすがシチュエーションとして探偵小説研究会のメンバーが作ったシナリオということで、まったくもって、もれなく暴かれる時は、なんだかすっきりしてしまいました。
で、そこに追い討ちをかけるように、物語全体にかかる謎も解かれていき、二重のトリック構造になっておるわけです。

ということで、3作とも推理小説の王道シチュエーションでありながら、ちょっと違った展開を見せるあたりが、憎いぜといった感じですね。