特番の打ち合わせが延びて急いでクルマに飛び乗った。
最寄りのインターから高速に乗り、バックミラーに小さくなる都会の夜景を映しながら北へ向かう。
『ゴメン、遅くなった。今向かってます』
音声入力で雅紀に状況を伝えてアクセルを踏み込んだ。
久々に雅紀と会える嬉しさと、
それから今日はちょっと違ったザワザワとを胸に
ハンドルを握る。
「今度の週末さ、しょぉちゃん忙しいかな?
実はフィズが20周年突入でパーティーやるんだよね。
おれの友達も来るから、しょぉちゃんを紹介したいなー、つって。」
カザマ以外の雅紀の友達なんてレアで、
『紹介したい』というフレーズに速攻で『行くよ』と二つ返事をした。
雅紀の友達にいい印象を与えたい、
そんな薄っすらとした下心を抱えながら
雅紀もあの飲み会にこんな気持ちで来たのかな、なんてチラリと考えた。
今ではすっかり顔馴染みになったマスターが俺のために確保してくれたフィズ裏のスペースに車を寄せて
後部座席に用意しておいた花束を手にする。
重低音が微かに漏れる重厚な扉を開くと、
ゴキゲンなサウンドが勢いよく飛び出して来た。
事前に雅紀から渡されていたチケットを入り口でスタッフに手渡すと、
『こちらです』といつもの2階席へと案内された。
階上(うえ)から人の波を眺めると、雅紀がどこにいるかすぐに分かった。
久し振りに見るコイビトは
前より少し伸びた前髪にキラキラと汗を光らせて
ミラーボールよりも輝く笑顔を放ち、オーディエンスの注目を浴びていた。
その笑顔を確認して2階の奥に目をやると
オーナーが背を向けて誰かと話している。
俺はデレかけた顔を引き締めて、
花束を手にオーナーへと近付いた。