「ゴメン、びっくりしないで?すげェ散らかってンけど。」
そう言ってサクライさんが玄関を開けてリビングへと移動する。
「おじゃましまぁす・・・」
・・・わ。
謙遜してるって思ったんだけど・・・本当に散らかってる・・・ふふ。
キッチリしてるイメージだったけど、案外そうでもないのかも?
「ゴメンね、ちょっと今場所空けるから!」
「あっ、いいよいいよ。それより早速、台所借りていい?」
買ってきたものを調理台に袋ごと置いて手を洗う。棚を開けて調理器具のチェック。
・・・すげぇキレイ。こりゃホント使ってなさそうだな・・・
適当に使えそうな道具を取り出してシンクへと置いていく。
「何?どうしたの?サクライさん?なんかあった?」
サクライさんが台所の入り口に寄りかかって見てるから何か用があるのかなって思って聞いたらハッとしたように姿勢を正して『手伝おうか?』って言ってくれた。
「うーんと、じゃあ袋から買ったもの出してもらっていい?おれこっち洗っちゃうから。」
「了解!」
いいオトナの男が二人並んで台所に立って・・・って思ったら、なんだかおかしくてニヤけちゃう。ふふ。
ひととおり鍋やら菜箸やらをすすぎ終わってサクライさんの方を見ると、丁寧に食材をきっちり並べ終わってドヤ顔で右手を調理台に、左手を腰に当ててこっち見てる。
「あっ、終わった?くふふっ、ありがと。いいよ、あとは適当に待ってて?おれ適当に作ってるからさ。」
台所が似合わないサクライさんを見送って包丁を手に取る。
おれが作ってる間、サクライさんはテレビをつけたくせにソファーに座ることなくリビングのテーブルを拭いてみたり、ちょこっと覗きに来たり、床に散らかった雑誌をまとめてみたり。
やっぱ初めての人間を家に入れて落ち着かないのかな?
「ここで見てていい?」
しばらくしたらサクライさんが来てカウンターを挟んだスツールに座った。
「くふふっ、いいけどなんかキンチョーするなぁ!」
「やっぱさすが、プロは手際が違うね!」
「プロじゃないよー!手伝いだよ、ただの!」
「何、アイバくんいつからやってんの?」
「店の手伝い始めたのは高校卒業してからかなぁ、包丁持ったのは小学校からだけどね!」
「えっ?」
「ほらウチ、両親共働きでしょ?小さい頃はじいちゃんばあちゃんの家に預けられてたの。ばあちゃんにメイワクかけてばっかじゃ悪いしさ。手伝いしようと思ってたら包丁の使い方とかいつの間にか覚えちゃって」
「・・・へぇ・・・そっか。」
「サクライさんは?全然やらないの?」
「うーん、やらないねぇ。」
「そっか。・・・あぁ、でもサクライさんは自分がやんなくてもやってくれる女性(ヒト)がいるか!くふふっ!」
「まぁね!なんつって!今はいないけど!ハハハ!」
「えっ!そうなの?そっかぁ!やっぱいたよねー!いいなぁ!カノジョの手料理とかさぁ、憧れるよね!」
ズキン・・・
自分で聞いてて、胸がギュッて締め付けられた気がした。
おれの知らないサクライさん。
コイビトの前ではその整った顔がどんな風に甘くなるんだろう。
その心地よいテノールの声で、どんな風に愛を囁くんだろう・・・
→Step#19