「良かったらおれ作ろうか!」
・・・って。なにゆっちゃってんの?おれ。ホラ、サクライさん困っちゃってるじゃん。
「サクライさん有名人だもんね、そんな簡単に他人を家になんて上げないよね・・・」
そうだよ、ちょっと話せるようになったからって、サクライさんにとってみたらおれなんてさ・・・
「ゴメン、忘れて?」
分かってるはずだったのに、なんか勝手にサクライさんと友達になれた気がしてた。
サクライさんがあんまり自然に話してくれるから、有名人なんだって忘れてた。
バカだおれ。
サクライさんとは住む世界が違うんだって。そんな簡単に家になんて呼んでくれるわけないじゃん。
分かってるのに、胸がギュッてなって急に悲しくなった。
やっぱ、も・・・、帰ろっかな・・・
って思ったとき、肩に力強くサクライさんの手が置かれ、覗き込まれた。
「いやっ、是非!」
「・・・え?」
「俺、自炊とかしないから鍋とかスゲー少ないけど大丈夫?」
「あ・・・うん、とりあえず・・・深めのがあれば。・・・炊飯ジャーとか・・・お米は・・・」
おれとのテンションのギャップに戸惑いながら話す。
「ハハハ!さすがにそんくらいはあるわ!」
笑い飛ばしたその笑顔に、さっきまでのザワザワが吹き飛んで胸が温かく溶け出す。
「くふふ、そっか!」
良かった、サクライさんに唐揚げ食べさせてあげられる!
さっきの落ちたキモチがまた急上昇して簡単にできる付け合わせなんかを思い浮かべながら笑顔が止まんない。
サクライさんの車に乗せてもらって、マンションへの帰り道、スーパーに寄って食材を調達する。
そこへはたまに惣菜や缶詰なんかを買いに行くらしく、精肉コーナーにいたパートのおばちゃんに『あら、サクライさん今日は作るの?珍しい』なんて言われたりしてる。
「アレ?今日はお友達も一緒なの?まー珍しいわね」
「えぇ、そうなんです。」
ふふふ。サクライさんてば さっきから珍しがられてばっかりだ。
サクライさんがおばちゃんと気さくに話していることも、自分が友達って言われたことも、一緒に買い物に来る人がいるのが珍しいってことも、今こうして一緒に買い物をしていることも。
なんだか全てが誇らしいような、くすぐったいような、誰かに自慢したくなるような、不思議な気持ち。
「何ニヤニヤしてんの?」
「えっ!」
「フフフ」
含み笑いのサクライさんに頭をポンって触られて我に返ると、サクライさんがカゴを軽く持ち上げて『もうOK?あと買うものは?』って言うから覗き込んで、日清のオイリオを棚から取って買い足した。