インしてみた。
ドライブインと書いてあるからね。
インと書いてあったら入る。それが自然の摂理だ。
これがアウトだと入る事は出来ない。それが自然の掟である。
ドライブアウト富士。ああ、そういうお店なんだなぁで終わる。
ドライブイン富士。ああ、入れるんだなぁと始まる。
インを漢字にすると吸引の引(いん)
そう、引かれているのだ。引かれて、惹かれているのだから。
インという文字を付けた創設者は偉大である。
この少しのかけ違いで運命は大きく変わっていた。
ありがとう、イン。
あ、遅れましたが本日は静岡県駿東郡小山町にあるドライブイン富士にお邪魔しておりますぞ。
それよりも見てぇ…
ドライブイン富士の文字が書かれた専用のCANDY STORE自販機の筐体をぉ…
パステルなカラーが時代を感じさせるねぇ…いいねぇ…
稼働してないし、空だぁ悲しいねぇって思うでしょ。
いやこれね、チャンスなんですよ。
当時のラインナップはなんだったのかを妄想するチャンスなんですよ。思わず太字にしたよ。
“この時代にはこのダミーラベルが飾られていた”という妄想が捗るでしょ。
これは90年代前半かな…そういう想定にしましょう。
カロリーメイトリキッドの3色置いてあったのかなぁとか
ポッカの維力(ウィリー)あったのかなぁとか、端にJAVA TEAなのかなぁとか最高でしょう。
え、ベンダーインになってるって?
分かった分かった。ではドライブに“イン”しよう。
あまりにもスナック過ぎる光景にショックを受ける。
あれ、お店間違えたっけ?と、リアルに足が止まる。
スナック『ドライブイン富士』という場所じゃないよな。
“ドライブインに入ったつもりがスナックだった件”みたいな異世界転生モノでもないよな。
ああ、一回外に出て看板を確認し、また店内に戻りたい。
なんてキョロキョロしていると丁度、厨房からエプロン姿のお母様が出てきた。
うむ、やはりドライブインで間違ってなさそうだ。
いやはや…サプライズが過ぎるぞ、ドライブイン富士。
そして、4人掛けのテーブル席に案内される。
染み付いた煙草の香りと飲食店な香りが混じりあう、昭和レトロな空間。
よく見るとカラオケもあるし、なんなら襖の隙間から居間が見える。
時間帯によって変わる、住居兼スナック兼定食屋という感じなのか。
テーブル席に1匹。
他人のお宅感もあり、いつもよりソワソワする。
とりあえず、お品書きを見よう。
う~ん、この手書き感が良い。
書体から伝わる乙女感がまた良い。
ラインナップは和から洋までの“いつメン”がズラリと並んでいる。
ガッツリな定食とサクッとな月見うどん・そばが同居しているのもドライブインならでは。
ベテランだとカツ煮定食+月見うどんだったり、カレーライス+焼きそばに行き着きそう。
なんかこう、ドライブインやサービスエリアに行くと
カツ丼とラーメンのメインを二つ頼んじゃうとか
定食に更にもう一皿みたいな食べ方しちゃうよね。あの急に食欲出る感じ、なんだろうね。
というか1000円より高いものがない。これまた面白い値段設定だな。
そうなると他では1200~1500円クラスであろうトンカツとハンバーグとミックスフライ。
この3つは結構、狙い目かもしれない。
ここ最近は定番モノが続いていたのもあり、速攻決まった。
すみませ~ん、ハンバーグ定食で。
このお店に相応しい水差しがやってくる。
これにトングを添えた氷と焼酎があれば、おじさんなセットが完成してしまう。
飲みながらゆっくりと店内を見る。
時代は感じるけど、綺麗に保たれているなぁ。
今日まで大事に使われてきたというのが凄く伝わる。
そんなこんなでボーッとしていると、次々に小鉢がテーブルに運ばれてきた。
最初に来たのは、しらすとひじきの煮物。渋い!
よし、ここは焦らず一旦様子を見よう。
ここでガッと食べ出したら、インドカレー屋のサラダ理論と同じになってしまう。
先に出てくるサラダを食べて、その空の器と引き換えにカレーとナンを置く感じ。
そう、これは定食だ。
手を付けずに眼下に広がる、ご飯列島を形成させないといけない。
ハンバーグが本島。対を成すご飯島。そこに小鉢の離れ小島。これなんですよ。
一つも欠けちゃぁいけない。
そんな、くだらない事を考えながら待っていると
追加の小鉢、ご飯に味噌汁、最後にメインが運ばれて定食が完成した。
これがドライブイン富士特製のハンバーグ定食か!
いやいや、この内容で1000円は豪華過ぎるのではないか。
盛りの良いご飯に対して、これだけのおかずが待っているのかと思うと凄く気持ちが高ぶった。
小鉢が4つもあるというのが、あまりにも熱い。
日替わりらしく、この日はひじきにしらすに高菜に漬物。
うむ、メイン無くても質素な定食として成立するレベル。
これだけでも大盛りご飯いけちゃうんじゃないの。
いや、待てよ。
ここのお味噌汁、まさかのもずくのお味噌汁ではないか。
そうか。ご飯に合う小鉢の中に居たので完全に騙されていた。
皆様はお気づきであろう。そう、しらすの存在である。
味噌汁に入れての海鮮+海鮮の相乗効果を完全に見落としていた。
愚かな事にご飯に使うのかとばかり信じ込んでいた。
私は危うく可能性を潰す所だったのだ。
そうか、最初にしらすが来たのはこの時の伏線だったのか。
全て揃う前に使い所を吟味せよという時間であったと考えると納得出来る。
寸前にこの選択肢に気づけて良かった。
そう、立ち食いそば屋の朝セットで蕎麦とご飯と生卵が出た時の“生卵”と同じである。
欲張って半々使った時の中途半場感よ。あの惨めさだけはもう二度と経験したくない。
なので二者択一。心は決まっている。
私は…私、ササローは…しらすを!ご飯に使う事を!ここに宣言しよう!
というか、しらすの上に鰹節も乗っていたので
醤油をちょいと垂らして、ご飯と一緒に食べるんだなぁと気づいていたのはナイショだ。
これだけ周囲が豪華なのにも関わらず、ハンバーグに目玉焼きが付いてるという神仕様。
オーバーキルならぬオーバーハッピーだ。
店主のお腹をいっぱいにさせたい、満足させたいという気概を感じる。
ソースの盛り付け具合も良いし、これ以上言う事は無い。
では、いただきます!
まずは小鉢から。
うん、これは実家の味だ。家の味だ。
同じ材料、同じ作り方で料理は出来る。だが、そうじゃないんだよと。
作り手の温もりを感じる味なんですよ。
これ以上ないぐらい、個人的過ぎる感情的な感想なんだけどね。言わせて下さいよ。
やはりね、気持ちこそが一番の美味しさのポイントだと思いますね。
お漬物も良い。
これは自家製のぬか漬けかなぁ。
ご飯と合うように変にしょっぱくさせていない所が良いね。
時にはご飯。時にはおつまみ。これくらいの塩梅が素敵味。
メインのハンバーグ。
手ごねという感じの柔らかく、ふんわり食感。
ハンバーグだ!という喜びより、手料理だなぁという安心感のある味。
それを支えるソースも凄い。これも手作りなのかしら?
ケチャップベースかな、旨味を含んだ甘酸っぱさ。
それ以外の野菜由来の甘みも感じる。この一工夫が外食だというのを感じさせる。
そして、シメに味噌汁。これがまた秀逸!
ここ最近の味噌汁の中ではヒット作かも。
ワカメじゃない海藻類だと、どことなく磯臭いんじゃないかというイメージがつきまとうが
穏やかな風味かつ、海藻由来の柔らで広がる旨味感。
またこちらも良い塩梅。お吸い物はね、お吸い物でいいんですよ。
どれもチェーン店にはない、作り手を感じるさせる味だ。
ご馳走様でした!
昔から優れていると評価されてきているものは現世では古臭く感じてしまう。
本質を知らないのにも関わらず、周りの意見だけを聞いて
もっともらしい評価を下し、敬遠してしまう。
人から与えられた物差しではなく、自分の物差しで良いか悪いかを測らないといけない。
そんな大切な“昔から優れている材料”がここにはある。気がする。
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【お店情報】
ドライブイン富士
住所:〒410-1303 静岡県駿東郡小山町生土557-1
電話:0550761075(予約可)
営業時間:月・水~日:11時00分~23時00分(早めに閉まる時もあり)
火:11時00分~14時00分
※支払いは現金のみ
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