最近のウクライナ危機報道で気になるのは、ロシア側、ウクライナ側それぞれの兵士およびウクライナ民間人の死者数がはっきりしない点だ。
コロナ関連の報道においても、私が注目しているのは感染者数ではなく死亡者数であり、感染者数は検査数との兼ね合いであまり信頼性が高くないのに対し、死亡者数は危険度を測る上でまだ参考になるのではないかと思うからだ。
それでも、死亡者数がどこまで正確かという保証もなく、死亡状況や死因については詳しく報道されないので、死者数が増えていても第7波が懸念される新型コロナの脅威度合いを計りかねる状況を生み出しているのも事実だ。
ウクライナ危機に関しても、戦争の最悪な点は人間同士が殺し合う点であり、双方でどれくらいの被害(死者)が出ているのかは、その悲惨さを理解する上では最も重要なことであるにも関わらず、その数字がはっきりしないというのは釈然としないし、この紛争の現状を部外者が評価することは難しい。
特に、ウクライナにおける市民(非戦闘員)の被害を正確に知ることは、ロシアの行っていることの現実を知る上で重要だと思われる。
しかし報道は、ロシア軍側の被害がどれほどであるか?という部分にフォーカスしがちで、ロシア側は自軍の被害を小さく見せるために報道規制を敷いてロシア軍側の戦死者数をごまかしているようだ(と報道されている)。
プーチンに対してですら、将校たちが状況をごまかすために正確な数字が報告されていないという説もあるが、それはさすがにないだろうとは思う。
いずれにせよ、メディアで公表される死者数は、特にロシア軍の死者数に関して、ロシア側の公表と西側メディアの公表では数字の乖離が激しすぎて戦況は全く理解できない。
ウクライナ側には、ロシア軍の被害は予想以上に大きく(ウクライナ軍は良くやっている)、自国ではロシア軍の無差別で非人道的な攻撃によって犠牲となった民間人の被害が大きい(ロシア軍は非人道的な侵略者である)ように見せたいという意図が強くあってもおかしくはなく、それが情報を更に湾曲させている気もする。
西側の報道ではロシア軍の戦死者は既に1万人~1万5千人と言われているが、ロシア側の発表では1300人とか10倍くらいの差があり話にならない。
常識的に考えて、ロシア軍兵士とウクライナ兵士の死亡数はそれほどかけ離れてはいないように想像するが、ゼレンスキーの肌感覚ではウクライナ兵の10倍近くはロシア兵がやられているという認識のようだ。
ウクライナでは民間人もどんどん徴兵されて兵士として戦っているようなので、職業軍人と民間人の区別は難しい部分もあるだろう。
基本的に、ロシア側は兵士しか死んでいないが、ウクライナ側は兵士と民間人が死んでいる。
ウクライナでは民間人の死者数が、兵士の死者数よりも遙かに多いのは当然だろうが、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が報告しているウクライナ民間人1000人以上の死者という報道に対し、マリウプリだけで5000人近くの死者が出ているという市長の発言には驚きを隠せない。
過去の死者数に関連するネット上の報道をランダムに抜粋すると、以下のようなものだ。
ロシア軍戦死者数は米政府筋によれば3500人から6000人(3月9日)、ロシア政府発表では498人(3月2日)。またウクライナ軍の戦死者数は、ウクライナ政府によれば1300人(3月12日)、米政府筋によれば2000~4000人(3月9日)となっている。
(3月13日)ゼレンスキー氏はこの日、首都キエフで開かれたメディアへのブリーフィングで、これまでの軍の犠牲者が約1300人だと明らかにした。ウクライナ政府が自軍の死者数に言及するのは、2月24日にロシア軍が侵攻して以来初めて。インタファクス・ウクライナ通信によると、ゼレンスキー氏はロシア軍側の犠牲者数を1万2千人前後と見積もり、「約10対1の比率だ。ただ、それを喜ぶ気持ちにはなれない」と述べた。また、ゼレンスキー氏は、ロシア軍の兵士500~600人を捕虜にしたと話した。
ロシアは25日、軍の戦死者が1,300人以上にのぼったと発表した。
西側諸国が把握している数と大きく食い違っている。
ロシア軍参謀本部幹部「3月25日までに1,351人の軍人が死亡し、3,825人が負傷した。
ロシア国防省は、ウクライナ侵攻後、初めて外国メディアを招き戦死者の数などを発表した。
ロシアが戦死者の数を明らかにするのは3月2日に次いで2回目だが、アメリカ政府は「数千人」と推計していて、大きく食い違っている。
ロシアのプーチン政権寄りのタブロイド紙コムソモリスカヤ・プラウダのウェブサイトが3月20日、ロシア国防省関係者の話として、ウクライナ侵攻におけるロシア軍の死者を9861人、負傷者を1万6153人と報道した。 だがこの数字は即座に削除され、ロシア当局の情報統制強化を物語っている。
<9861人> ロシアのタブロイド紙が報じたロシア軍の死者数 <1万6153人> ロシアのタブロイド紙が報じたロシア軍の負傷者数 <7000人> ニューヨーク・タイムズ紙が報じたロシア軍の死者数
CNN) ロシア軍が侵攻しているウクライナで、侵攻が始まってからの民間人の死者数が21日までに925人となったことがわかった。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が明らかにした。
OHCHRによれば、少女11人、少年25人が死亡したほか、性別不明の子ども39人も死亡した。
民間人の負傷者は少なくとも1496人に上っている。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は26日、ロシア軍による侵攻が始まった2月24日から3月25日までで、ウクライナで少なくとも一般市民1104人が死亡したと発表した。戦闘が激しい地域からの情報入手が遅れており、実際の数字はこれよりはるかに多いとみている。
ウクライナメディアはマリウポリ市長の発言として死者が5000人近くに上り、そのうち210人が子どもだと報じている(3/30)。
このように、報道の数字はは錯綜しているが、ウクライナ民間人の死者数は、少なくとも1104人以上出ていることは確かだろう。もしマリウプリだけで5000人の死者が出ているというのが事実だとすれば、既に6000人以上の死者が出ており、今後1万人以上の死者が1ヶ月以内に出てもおかしくはない。
兵士の死者数については、現時点でロシアの兵士が1万人も死んでいるとは考えにくいが、1500~2000人くらいの死者は出ているような気がする。
ウクライナ兵士の死者数はあまり報道されていないが、3月12日のゼレンスキーの言及した1300人という数字を信用すれば、ロシア兵と同様に1500~2000人くらいではないかと推測する。
しかしながら、ロシア軍の死者が1500人か15000人なのか?という問題よりも、ウクライナの民間人(非戦闘員)の死者が1000人なのか10000人なのか?ということの方が遙かに重要だと思われる。
ちなみに、国連難民高等弁務官事務所(OHCHR)は3月30日、ウクライナから国外に避難した難民の数は400万人を超えたと発表している。
避難先としては半数以上の230万人余りがポーランドで、ロシアへの避難も35万人近くいるとのことだ。
ウクライナの人口は4千万人なので、その1割が既に国外に避難したということになる。
また、およそ650万人がウクライナ国内で避難生活を余儀なくされている国内難民となっており、人口の4分の1にあたる1000万人以上が戦争難民と化している。
結局のところ、ロシアが欲しているのはウクライナという国なのか、それとも土地なのか?
あるいはそのどちらでもないないのかもしれない。
このまま侵攻が長引けば、ウクライナ市民はどんどん国外に避難して、適齢の男性だけが兵士として残るような形になってしまいかねない。
もし、同様なことが台湾で起こった場合、台湾の人口は2360万人だが、500万人以上の避難移民を日本は受け入れることになるだろう。