HSBC(香港上海銀行)という銀行をそもそも知らないという日本人はきっとまだ沢山居るに違いないが、HSBCは世界最大級の銀行のひとつであり、英国領香港に1865に設立されてからちょうど今年で160年になる。
2020年の香港国家安全維持法によって既に中国に政治的に支配され、(1997年の返還から50年後の2047年には中国に完全返還される)中国化が進んでいる香港が拠点とは言え、その国際的信頼性は疑う余地もない。
日本においても、HSBCの歴史は外資系銀行では最も古く、薩長連合の盟約が成立し、寺田屋騒動で坂本龍馬が襲撃され、年末には徳川慶喜が15代将軍となった1866年(慶応2年)に香港上海銀行(日本支店)が開設されている。
現在においては、法人部門だけが東京と大阪に残っており、残念ながら個人向け部門(HSBCプレミア)からは2012年2月に撤退している。
HSBCプレミアという個人富裕層向け部門は2008年に鳴り物入りで日本に上陸したものの、期待されていたほどの商売にならなかったようで僅か4年での撤退という見切りの早さだったが、日本の金融市場のガラパゴス的閉鎖性を露骨に表わしており、HSBCとしては「こんな国の金融リテラシーの低い顧客を相手にしていても商売にならない」という判断だったのだろう。
奇しくも同年(2012年)、マン島フレンズプロビデント・インターナショナル(FPI)が日本居住者からの契約受付を終了しているが、これも日本の閉鎖的な金融業法に起因する日本人市場のクオリティーの低さが原因だったと言える。
米大手銀行のシティバンク(citi bank)も2014年に日本からの撤退を決定し、2015年11月1日にはリテール事業がSMBC信託銀行に売却され、新ブランド「PRESTIA(プレスティア)」として引き継がれた。
かつては日本のシティバンクにも口座を持っていたが、この時に不要と思い解約した。
HSBCの支店は日本からは撤退したものの今でもオフショア地域のみならず世界中の主要国に存在し、私個人的には香港、中国、シンガポール、ベトナム、マン島の5口座を保有しているが、その中でも香港のHSBCがインターネットバンキングやスマホアプリによるモバイルバンキングの使いやすさとセキュリティーの高さからいちばん使い勝手がよい。
同じHSBCであっても国ごとにネットバンキングのシステムは異なっており、常に最新のものは香港のHSBCである。
ドバイとタイにも持っていたが、タイは日本と同じような理由で撤退してローカルに売却され、ドバイは非居住者の口座維持が難しくなったのでいずれも口座は閉鎖した。
ベトナムのHSBCは、非居住者がベトナムドン建ての定期預金もできなくなり、ATMカードすら発行されなくなった為、もう必要はないのだが、解約しても口座のベトナムドンを持ち帰ることができずに温存している。
海外口座マニアの私は、HSBC以外にも、citi、Hang Seng、ICBC、Wells Fargo、Lloids TSBなどの銀行口座を保有しているが、他行と比較しても世界のHSBCグループの中においても、やはりHSBC香港が最も便利で使いやすい。
HSBC香港の銀行口座を開設するには、香港への渡航も必須だし、今や英語がペラペラに話せる人が窓口で直接交渉しても事前の予約無しでは開設が難しいので、なにがしかの手数料を業者に支払って開設サポートを受けるのが無難だろう。
まあ、口座開設の難易度でいえば、10年前と今では比較にならないほど難しくはなっているが、それでもまだ日本居住者が口座を開設可能な状況というのは奇跡的にありがたい。
現実には、そこまでして海外の銀行口座を持つ意味などわからんという人が大半だろうが、たとえ今は海外移転するほどのお金が無くとも、海外の銀行口座、特に物理的にも日本から近く便利な香港のHSBCで口座を持っておいて損はない。
巷では、もう開設はほぼ不可能だとか、そんなものは不要だとか、少なくとも積極的に勧める人が減っているのは確かだが、それは単に勧めるメリットがその人(勧める側)に無いからに過ぎない。
投資商品や保険商品と同様に、海外の銀行口座など他人に勧められて開設するようなものではない。
自分自身が本能的に、また論理的にその必要性を理解して開設に挑みべきものだろう。
また、そこそこ成功者と思われるビジネスマンが、海外の銀行口座のひとつも持っていないというのは恥ずかしい気もする。
日本に住み、日本で働き、日本円で収入を得て、日本で税金や社会保険料を支払って、主に日本で日本円しか使わない日本人が、海外に銀行口座を開設して外貨で資産を分散しておくべきだと気付くには色々と無理があるのかもしれない。
確かに、分散するほどの資産や預金や、収入がない人たちが、そんなことを考える余裕もないことはよく分かる。
ましてやこれからまだインフレが進むと思われる今の世の中で、日本であっても貯蓄自体が進むとは考えにくい。
なので、政府としてはつみたてNISAのような預金が無くても収入から毎月少しずつでも手軽に積立が可能な商品を若い世代に普及しているのだろう。
いまや、65歳以上の高齢者や未成年からもあさましくNISAで銀行に眠るカネを吸い上げようとしている。
もともと、タックスヘイブン(オフショア)の銀行に口座を持ちたい人というのは、資産を隠して税金を払いたくない人や、海外で投資をしていて、その受け口として便宜上口座が必要だったというひとが大半だったように思う。
しかし、日本居住者が、税金のかからないタックスヘイブン(オフショア)に銀行口座を開設する意味は、CRS(Common Reporting Standard)という徴税のために多国間情報共有システムにタックスヘイブンが組み込まれた今となっては薄れてしまった感が大きい。
少なくとも、商業的にHSBC香港の口座開設を勧める業者目線では、セールスポイントは薄れてしまったのだろう。
それでは、海外に銀行口座を持つ意味はもうないのかと言えばそうでもない。
CRSの情報共有システムによって、日本居住者の場合、世界中の銀行口座の年末残高が日本の税務当局に把握されているが、それはデータとして把握されているというだけであって、即犯罪とか脱税というわけではない。
そこで発生する金利など確定利益については日本で税務申告の対象となるが、1,000万円くらいの預金があったとしてもそこで発生する金利は1%だとして10万円にしかならないので20万円を超えなければ確定申告は不要だ。
おそらく、殆どのひとが海外の銀行で得られる金利は申告不要だろう。
※但し、為替が考えられないほど大きく(円安に)変動した場合には、為替差益が発生する可能性はある。
もし、もっと大きな額を海外で運用したいのであれば、オフショアファンドや海外の生命保険会社が提供するドル建ての運用商品などで運用していれば、利益が確定するまでは日本での課税は発生しない。
また、国外財産調書の提出が必要になる5,000万円を超える資産を海外に移転したいと考えるのであれば、その一部は、6年間ほど資産圧縮が可能なサンライフ香港(Sun Life Hong Kong)のサンジョイ(SunJoy)やサンギフト(SunGift)のような運用商品を利用した方が国外財産調書の提出義務も回避できるので良いだろう。
海外の銀行口座を開設するのがブームだった15年くらい前までは、まだCRSもなくマイナンバーも存在せず、海外の銀行に手持ちで運んだ現金を入れておけば日本側では分からないと思っていたというのはあるかもしれないが、当時でも口座を開設して何千万円とか累計で何億円とかのお金を海外に運んで入れた人はそれほど多くはない気がする。
思い返してみれば、日本人は今も昔も、海外に銀行口座があったとしても結局は日本に大半の資産を置いたままにして腐らせている。
たとえ、それが課税されるものであったとしても、あるいは資産を隠したいとは思っておらず将来納税する意思があったとしても、海外の銀行口座(その中でもHSBC香港の口座)をなるべく多くの日本居住者が保有しておいた方が良い理由は、究極的にはいつかくるであろう突発的なハイパーインフレ(経済破綻)やそのトリガーとなりうる大地震や有事に備えた資金の移民先がなければ生き残ることすら難しいということだ。
1)緊急時のサバイバル的観点
日本という国が将来どのような経済的な危機に陥るかはわからないので、資金の緊急疎開先として海外の銀行口座はあった方がよい。
物理的に海外の金融機関にあるお金は、その国の金融体制に依存しており、日本があるとき突然預金封鎖のようなことを行っても、他国にある資産は影響を受けない。
日本の金融機関を世界と比較して信頼しすぎるのは個人にとっては危険である。
2)資金の流動性と、税の強制力からの避難目的
海外でビジネスをしている、もしくは海外に既に投資をしているひとは、将来それを現金化して将来使ったり、別のものに再投資をするためのストップオーバー拠点として、流動性の高い海外の銀行口座を保有しておくべきだろう。
海外で得られた収益や利益を、日本国内に直接戻せば即課税は逃れられない。
海外の銀行口座で受け取っても、日本居住者である限りは課税義務がなくなるわけではないが、強制的に徴収されることからは逃れられる可能性がある。
また、オンラインバンキングで簡単に世界中の別の金融商品に資金を移転することも可能。
日本で使用する際にも、銀聯やMaster Debit Cardなどを使って何の不自由も無い。
まだ、上記のWorld Debit Master Card(マスターデビットカード)を申請していない人は現地に赴く必要はあるが申請しておいたほうが良いだろう。
これから口座開設するひとはその時に申請することをお勧めする。
3)銀行口座のデジタル化やAIの導入といった最新の海外プラットフォームに順応する必要性
香港HSBCの最新オンラインバンキングに慣れ親しむことによる英語や金融リテラシーの向上。
海外の銀行が提供しているオンラインバンキングのプラットフォームのほうが日本の銀行システムよりも遙かに進んでいる場合が多く、インターネットバンキングやモバイルバンキングなど、海外(たとえば香港HSBC)のスタンダードに慣れておくことは有益であると考えられる。
特に、スマホのアプリを使ったHSBCモバイルバンキングは、セキュリティー上の理由などからオンラインバンキングのカギとなっており、それが使えないと何もできないが、それが使えれば殆どのことができてしまうような状況になりつつある。
最近日本の証券会社の口座がハッキングされて、かってに株の売り買いがされたというニュースが出ているが、スマホの顔認証によるログインやアプリに直接送られてくるプッシュ通信による個人認証が行われていればあのようなハッキング事故は起らない。
以上の3点は、いずれも多くの人が甘く見ていて想定していないが、将来起こりうる危機や不自由さに対処して生き延びていく為の海外銀行口座の必要性が集約したものだが、もちろん開設してもそれを使いこなさなければなんの意味もない。
既にHSBC香港など海外の銀行口座を持っている人の中でも、ちゃんとスマホにアプリをインストールして使えている人は全体の20%くらいしか居ない気がする。
日本人というのは、銀行を金庫代わりとしか思っていない人が多いのか、銀行口座にお金を入れたまま放置しがちだが、HSBC香港は2年間口座の動きがないと休眠になりお金が動かせなくなる。
HSBCに代表されるオフショアの銀行口座は、もともとはスイスのプライベートバンクと同様に、富裕層やGAFAのような国際企業が合法的に節税を試みたり、時に違法に資金を洗浄する(マネーロンダリング)の温床となったりしていたが、CRSの世界的な普及や米国のFATCAというマネーロンダリングを取り締まる組織の活動によって、課税的観点においてもマネーロンダリングという犯罪防止の観点においても規制は遙かに厳しくなっている。
そんな巨額な資金洗浄や脱税とは全く縁のない「ゴミ投資家」にとっては、メディアに取り上げられるタックスヘイブンの闇は気にするようなことでもない。
そして使い方次第だが、今でもいざというときに金融的に生き残る為に有益なサバイバルツールだということを知っておくべきだろう。