香港のIFAは大丈夫なのか? | Mr.Gの気まぐれ投資コラム

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香港を拠点に活動する個人投資家であり、自称「投資戦略予報士」Mr.Gがお伝えする海外投資の生情報。
ねだるな勝ち取れ、さすれば与えられん!

 

私自身も長年に渡ってお世話になっている香港のIFA(Independent Financial Advisor)だが、中国による国家安全維持法の制定や、コロナ渦やウクライナショックなど今世界を取り巻く悲惨な状況下で、果たして香港のIFAは大丈夫なのか?というシリアスな題名で敢えて書いてみたいと思う。

 

実は、皆さんが思うのとは別の意味で香港IFAの未来に関して心配なことは存在する。

 

IFA(Independent Financial Advisor)とは、直訳すれば独立系金融アドバイザーという日本で言えばFPみたいな印象だが、実体は「保険の窓口」のような複数の金融プロバイダーの提供する様々な投資商品を仲介する総合代理店にすぎない。

 

改めて言っておくと、IFAは関連会社を使ってポートフォリオサービスなど運用に関わるアドバイスや管理を行うこともあるが、その業務の本質は営業、仲介、アフターサービスの提供であり、運用ではない。

 

おそらく日本でオフショア投資をやっている人たちの90%以上が、仲介業務と事後のサポートを香港のIFAに依存していると思われるが、香港国家安全維持法の制定により中国化の進む香港の未来に不安を覚え、そのまま香港IFAに契約や運用の管理を依存していて大丈夫かと感じているに違いない。

 

だが、前回お話しした通り、RL360(マン島)やITA(ケイマン諸島)など香港でも未認可のオフショア金融商品の場合、日本居住者が香港の会社経由で契約していると思っていても、実際の仲介会社は香港法人ではなく、BVI(ブリティッシュバージンアイランド)など香港以外の国の関連会社経由なので、そもそもその懸念対象にはならない。

(※ただ、実際のオペレーションは香港法人のスタッフがやっていることを考えると、その香港IFAが潰れてしまうとサポートが受けられなくなるというリスクはある。)

 

香港国家維持法による中国支配強化から、もし何か不都合が起こることを心配するとすれば、SunLife香港やFTLifeといった香港籍の生命保険商品を香港のIFAが香港の金融ライセンス下で仲介している場合に限られる。

 

現実には、政治体制の中国による管理強化によって、香港の金融センターとしてのバリューは下がるどころが評価が高まっているようだが、銀行など金融機関に預けている資産が有事などによって中国政府に没取されるとか、加入している保険会社が不払いを起こすとかいうようなほぼあり得ないようなリスクを日本人は心配しているように思われる。

 

香港を拠点に香港の金融商品のみならず、世界のタックスヘイブンの金融商品をアジア全域に流通させるハブ的な役割を1997年の香港返還以降担ってきた香港IFAビジネスの地盤や金融センターとしての機能は、政治体制の中国化が進んでもそれほど簡単に揺らぐものではないものの、その後に発生したコロナ渦による人流制限によってIFAや銀行が受けている経済的な打撃というのは小さくはない。

 

そもそも論だが、IFA(Independent Financial Advisor)という保険やセービングプランなど金融商品の仲介を生業とするビジネスは、仲介需要がある限り、極めてリスクの低い、利益率の高いビジネスである。

ただ、仲介需要は誰かがどこかの国でなんらかの営業活動をしていなければ発生しない。

 

前述の通り、営業、仲介、サポートという3つがIFA主要業務だが、ローカル業法上問題がある営業と面倒くさいサポートは大半のIFAが現地国のパートナー(紹介者)に丸投げしているので、実際には仲介業務だけしかやっておらず、ほぼ自動的に回ってくる契約書を機械的に取り次ぐだけで仲介手数料が入ってくる。

 

故に、香港IFAの経営上の弱点は、収益に絶対的な影響のある営業力を現地国の傭兵に委ねているところにある。

 

更に、香港にお互い競合するIFAが多すぎるという点も問題であり、IFA間で傭兵の奪い合いが起こり、現地国の傭兵に支払う手数料(コミッション)の吐き出し競争が起こり、本来ならサポート業務の継続の為に留保可能な利益はどんどん削られていってしまう。

 

いわゆる競合の激化による「市場のレッドオーシャン化」を香港IFAが自ら招き、儲からないものにしてしまっているというのは事実だ。

 

香港人は概して「そろばんずく」な人たち(何をするのにもまず損得を考え、損をしないようにすること。勘定高いこと。)であり、自分が損をしないようにばかり計算して動いた結果、大切なものを失いがちで、悪い人たちではないが、お金に関しては短絡的というか、「金の切れ目が縁の切れ目」的なところもある。

 

そんな香港人が経営するIFAというビジネスを営む会社は、業界内での連携も談合もなく、かといって真っ向からつぶし合うわけでもなく、風水的な成り行きで市場を開拓しては潰し、また開拓しては潰していってしまう。

 

20年程前は、台湾市場がレッドオーシャン化し、2010年頃からの過去10年くらいを振り返ると、どの香港IFAにとっても主戦場は中国本土であり、RMB(人民元)を国外に避難させたいと考える中国人富裕層客の取り合いで香港IFA間の激しい競争が繰り広げられた。

 

日本市場に関しては、幸い規模が小さかった為、この20年にわたって比較的ブルーオーシャンが維持されてきたものの、少なからず同様の無益な争いが行われてきて、その結果業法上の理由などで淘汰されてきたIFAもあるし、傭兵として雇われていた紹介者が犠牲になったりもした。

 

2020年からのコロナ渦の影響により、居住ビザを持たない外国人の香港への入国は一切できず、永住権やビザを持っていても2週間の自腹によるホテル隔離など、一旦国外に出てしまうと帰国すら難しい状況が今でも続いている。

 

その事は、物理的に香港や米国へ渡航することによって巨額な保障の付いた生命保険の契約をしていた中国人富裕層ビジネスを完全に壊滅させたと言っても良いだろう。

 

中国人が香港のIFA経由で香港や米国やオフショアの生命保険を契約する際には、基本的に香港または米国への渡航が必要だったため、それがコロナのせいで出来なくなったというのが大きい。

このダメージは、香港IFAにとっては相当手痛かったに違いない。

いわば、香港IFAはドル箱を失ってしまったのだ。

 

また、中国人富裕層だけでなく、日本や韓国、台湾や東南アジアといった国外カスタマーからの新規契約も激減している為、香港のIFAはどこも経営状況が厳しくなっているという事実は否めない。

 

現在でも、中国人富裕層が海外に外貨で資産を疎開させたいというニーズは強く残っていると思われるが、その窓口として機能してきた香港が中国の規制下に入り、既に国外に出てしまっている膨大な資金を国内に戻したいと考える中国政府の意向によって、中国人の本土からの資金流出や脱税は厳しく監視される状況となった。

 

つまり、資金の出口であった香港が中国に政治的に掌握された結果、海外に資金を流出させていた中国人富裕層の資金は中国政府の監視下に入り、場合によっては課税される対象となったが、中国政府が中国人以外の外国人の資産に課税をしたり凍結したりする理由は今のところ見当たらない。

 

香港や米国の生命保険を使った資金移転は、IFAとプライベートバンクが提携し、証券を担保に保険料借りてレバレッジを効かせて高額な保障を手に入れるにれる手法(プレミアムファイナンス)も活用されて、かつては相当な金額が動いたが、コロナ渦になってからのこの2年間は中国人のカネは殆ど動いていないと思われる。

 

その為、香港や米国に渡航しなくても契約が可能な保険商品が、香港IFAにとって今後のビジネスの命運を分ける重要な生命線となったと言える。

 

その筆頭は、香港の生命保険会社であるSun Life Hong Kong(サンライフ香港)とFTLifeであろう。

信託(トラスト)を名義人として契約することで、契約者の居住地がどこであるかに関わらず、少なくとも契約時点においては香港のIAの規制をかいくぐることができているが、真の契約者の居住国での業法(例えば日本の保険業法186条など)をクリアしているわけではない。

 

また、香港では認可がされていないため国内で香港居住者向けに販売ができないマン島籍のRL360や、ケイマン籍(日本居住者が契約可能なのはプエルトリコ籍)のITA(インベスターズトラスト)などが提供するオフショアセービングプラン(オフショア年金プラン)は、日本では最も売れているオフショア金融商品であることから、海外市場をメインとする香港IFAにとっては重要な資金源であるし、日本居住者は香港に渡航しなくても遠隔で契約することが可能だ。

 

問題は、日本人市場は中国人市場とは比較にならないくらいマーケットが小さくショボいということで、日本人市場にいくら力を入れても中国人市場のロスを補填する金額レベルには至らない点だろう。

 

そして、サンライフ香港やFTLifeがメインで提供するような小規模のホールライフ保険(Whole Life)や養老年金保険(Annuity)は中国ドメの平安や中国人寿などのローカル保険会社からも人民元建てで提供されており、わざわざ中国人が越境してまで買うほど競争力のある商品でもない。

 

また、RL360やITAが提供するオフショア・セービングプランみたいな長期積立という商品も、日本と違って中国人の市場特性には合わないようだ。

 

中国人市場を攻略するメインアイテムは、億円単位以上の保険料を一気に支払うユニバーサルライフであり、香港や米国に渡航しなくても契約が可能なユニバーサル保険がカギとなる。

 

中国の個人富裕層は、政府の規制強化によって安易には国外に資産を移転できないようになってしまったが、それは日本人が今現在直面しているCRS情報による税務当局の締め付けとは比較にならないほど厳しい。

 

その為、中国本土からのRMB(人民元)資産の海外への外貨での移転は、今までのように銀聯カードやクレジットカードを利用した保険料の決済というような手段も難しくなっている。

 

少なくとも香港までは、何らかの方法で資金を持ってきて香港の銀行に入金しなければ、他国に外貨での送金は難しい。

 

中国人が日本で不動産を爆買いしていた時にも、同様な問題があり、もちろんカードでは決済できないので、多くの中国人が物理的に大量の人民元キャッシュを持ち込んで両替していた。

 

結果として以前から存在する地下銀行による送金や外貨への両替がより活発になっているというのは必然的だが皮肉な結果とも言える。

 

更に、2019年に激化した香港民主派デモや、2020年の国家安全維持法の制定、ゼロ・コロナ政策に基づく香港-中国間の厳しい検疫などで、中国本土の人間でも香港に入国することは難しくなっている。

 

香港人が中国に入国しても、中国側の検疫があり、中国から香港に帰る際も香港側で隔離される。

これは、香港は既に中国に政治的にも統合されたと感じている多くの日本人からすると意外かもしれないが、香港は中国にとってまだ別の国であり、国境管理は厳しいのだ。

マカオ-中国間も同様に国境があるものの、香港-中国間よりコロナ検疫はゆるいようだ。

 

この香港ー中国間のコロナ検疫による移動制限によって、最も影響を受けたのは資金と物流だろう。

RMB(人民元)は香港やマカオを経由して海外に流れ出していたが、その流れが滞っている。

 

資金の流れに関与して中国人に金融商品を流通させていた香港IFAにとって、このコロナ対策の人流制限という物理的障壁が与えたダメージは、国家安全維持法の影響よりも遙かに大きい。

 

そんな中、香港のIFAが生き残る為には、いくつかの戦略があり得るが、ひとつは中国人富裕層が、渡航せずに契約できるユニバーサルライフ型の保険商品を開拓することだろう。

 

そして、もう一つは、現状においても渡航せずに契約できるホールライフ保険や、セービングプランといった金額的にはショボい商品を日本などそれが今のところ契約可能な市場において地道に拡販することだろう。

 

結果として、ショボくても渡航せずに契約が可能な香港保険やRL360、ITAといったオフショア積立商品が流通している日本という小さい規模の市場での競合が激化した場合、そのことが業法違反の乱売を横行させ、規制当局を刺激してその結果ビジネスが崩壊するという悲惨な結末は起こりうる。

 

日本市場は、今のところ渡航しなくても契約が成り立つ商品が有り、しかも規模が非常に小さいので、長期的に確実に市場を開拓していく地道な姿勢がIFA側にあれば、あまり問題は起きないし、ある意味おいしい市場なのだが、全体的に売り上げが落ちている埋め合わせを短絡的に日本市場に求め出すと面倒なことになりかねない。

 

最後にまとめると、香港IFAのビジネスが国家安全維持法制定によって受けたダメージは少ないが、コロナによって受けた人流制限によるダメージは大きい。

 

最も大きな営業的ダメージは、中国人富裕層向けのビジネスが無くなったことである。

 

今までブルーオーシャンだった日本市場に、そのツケを払わそうとすれば、市場ごと失う恐れがある。

 

結果として、多すぎるIFAが、その経営方針次第では淘汰される可能性もあり得る。

 

それゆえ、日本人が香港のIFA経由でオフショアの金融商品を契約する場合には、IFAの選択がより難しい状況となるが、少なくとも直接IFAの担当者にコンタクトを取ることが重要と考えられる。

 

別に契約を仲介したIFAが廃業したとしても、契約そのものはプロバイダーとの直接契約なので問題はなく、どこか移管先が見つかれば済むが、IFAのよりどころは担当者レベルなので担当者を直接掴んでおくことが重要。

 

私の個人的な見解では、200以上あると言われる香港IFAは、淘汰を避けられない。

日本市場に深く関与しているのはそのうち僅か10社程度だが、現在の市場規模を考えれば3社程度生き残れば問題はない。

 

但し、生き残るIFAを選別するのは顧客で有るべきだと考えている。

 

より良いサービスを提供するIFAを顧客が選別する能力があれば可能だと思われる。

 

つまり、我々顧客サイドが意図的に高いサービスを提供する方針を持ったIFAを選別し、そこに集中すれば、そのIFAは生き残ることが可能となり、そのIFAから継続的にサポートを受け続けることができるというわけだ。

 

これは会社がものをいう株主によって経営方針を左右されるのと同じような論理であり、顧客がIFAやプロバイダーを動かしていかなければならない気がしている。

 

現在は、IFAやプロバイダーが傭兵部隊に過度依存しており、西ローマ帝国が傭兵隊長であったゲルマン出身のオドアケルに滅ぼされたのと同様に、傭兵によって滅ぼされることもあり得る。

 

このまま放置すれば、営業力のある(業法違反の乱売を容認するような)IFAだけが生き残り、まともなサービスを提供しようとする真面目なIFAが淘汰されるだろう。

 

そうなる前に、顧客は立ち上がらなければならない。