FATCA、QI、CRSそしてFATF、最も怖いのはどれ? | Mr.Gの気まぐれ投資コラム

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世界の金融社会において、脱税と犯罪資金の洗浄行為(マネーロンダリング)を規制しているものには、米国主体のFATCAとQI、OECDが主体のCRS、そしてFATF(ファトフ)という国際的な政府間機関があり、それぞれ個別に活動しているが、この中で最も恐ろしいのはやはりFATCAではないかと思う。

 

FATCA(Foreign Account Tax Compliance Act)とは、米国市民及び米国居住者によるオフショア口座を利用した米国の租税回避防止を目的として2010年3月18日に施行された米国法である。

 

あまり知られていないが、FATCA施行以前の2001年1月より施行されている米国法で、QI(Qualified Intermediary)というものがあり、米国人(法人)が国外の金融機関を通して迂回投資を行う、または非米国人(法人)が本来の居住地国ではない国の居住者であると偽り、不当に租税条約の特典を享受する行為を防止することを目的としている。

 

このQIとFATCAは、米国が米国人(法人)による米国での租税回避を防止するために世界中にほぼ強制的に張り巡らされた徴税及びマネーロンダリング防止のネットワークであるが、米国人でも米国居住者でもない“米国非居住者”にとってはあまり直接的に関係の無いものである。

 

ただ、米国市民及びグリーンカードを保有する米国居住者にとっては、IRSという世界最強の徴税組織によって世界中の資産がガラス張りにされるという恐ろしいシステムであると言えよう。

 

それと同時に、テロ資金の源泉となる犯罪行為によって得られた資金の洗浄(マネーロンダリング)を防止するという名目によって、世界中の金融機関を米国が監視し、違反が見つかった場合には制裁を加えるという世界金融システムの警察として強制的に機能してきた。

 

2015年にアンドラ公国という小国のBPA(Banc Privada d’Andorra)というプライベートバンクが米国のFinCEN(Financial Crime Enforcement Network)によってマネーロンダリングに関与した疑惑によりお取りつぶしになったのが良い例かもしれない。

 

2012年にHSBC Holdings Plc.に麻薬取引の資金洗浄に関わったとして2,000億円にも及ぶペナルティーを科したのもこのFinCENだ。

 

そもそもUSドルによる国際送金は、どこの国からどこの国に送金が行われようと、SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication)=国際銀行間通信協会という45年も前から今に至るまで使用されている化石のような国際送金のシステムに基づき、必ず米国のコルレス銀行を経由するため、その額を問わず全て米国には把握されている。

かのエドワード・スノーデン氏のリークでも、米国国家安全保障局がSWIFTをターゲットにしていたことが明らかにされている。

 

昨年から日本でも情報共有が開始されたOECDのCRS(Common Reporting Standard)=共通報告基準は、この米国の一国主導で張り巡らされたFATCA網と同じようなシステムを、米国市民及び米国居住者以外の世界中に適用しようという目論見であり、各国における徴税漏れを防止するというショボイ使命に基づいている。

 

この数年は、CRSによって世界中の金融機関が、顧客の課税居住国確定や、その国のタックスIDの収集といった業務に追い回されてんてこ舞い状態だったが、未だにその混乱は続いているようだ。

 

CRSの問題は、誰もがどこかに課税居住国を持っていてその国のタックスIDがまるで米国のソーシャルセキュリティ番号のように存在するという前提に基づいて情報共有されるべきデータベースを構築するというところにあり、日本を含む100ヵ国以上のそれぞれ異なる税法や徴税システム、タックスIDを持つ加盟国の金融機関にその顧客の課税居住国とタックスIDを収集する義務を与えそれで紐付きにして一元管理していこうという無謀でカオスなプロジェクトである点が致命的だ。

 

FATCAは米国市民と米国居住者のみを対象としており、FATCA自体が主体性を持って世界中に情報の開示を要求しているのに対し、CRSは単なる資産情報の共有化に関するルールとシステムを構築しただけであり、そこから得られた情報を加盟各国がどのように運用するかに関してCRSやOECDに何らかの徴税に対する強制力やそれを推進する主体性があるわけではない。

 

すでに強制的で暴力的とも言える国際的ガバナンスを持つFATCAがある米国にとって、当然のことながらCRSに加盟する必要はこれっぽっちもない。

 

このように米国は、米国内に資産を持つ米国非居住者の情報をCRSに基づいて米国以外の国に開示する義務がないという点に於いて、米国は米国非居住者にとって世界最大のタックスヘイブンであると言われるようになり、今や中国人までも米国に資産をせっせと移転している有様だ。

 

CRS対策として、今のところ報告対象になっていない不動産や、CRSに加盟していない国に資産を移転するというのがトレンドになっており、特にCRSに参加していない米国領に資産を移転するという方法は、一見鉄板のように思われるが、果たしてどうなのだろう?

 

純粋に税という観点で見れば、属人主義の米国にとって米国市民と米国居住者以外からは徴税する意図が全くないので問題無さそうな気もするが、そもそも脱税に絡む資金の源泉の多くは犯罪にも関わっている確率が高いことを考えると、米国非居住者であってもFATCAによる監視が全く無縁とは言い切れない。

 

FATCAには米国市民や居住者からの徴税という目的以外に、犯罪資金の洗浄行為(マネーロンダリング)の撲滅という国家や世界の安全保障に関わる大義名分があるので、少しでもその可能性があるとみなされる資金は容易に凍結されてしまう。もちろん誤認というケースも多い。

 

それをCRSの純粋に徴税に特化した情報共有システムの脅威と比較したときに、どちらが怖いか?というのはなかなか判断の付きにくい点もある。

 

当然その資産の額や、源泉の性質などによっても状況は変わって来るだろう。

 

巷ではあまりにもCRSに振り回されて、CRSからどう逃れるか?という事に必死になっているひとが多いように見受けられるが、まずは米国のFATCAというものの脅威を良く理解した上で、脱税とマネーロンダリングというものが世界でどのように取り扱われているのかをよく考える必要がある。

 

CRSに加盟していない国に資産をおいておけば取り敢えず大丈夫と考えるのは短絡的かもしれない。

 

今年は、日本でこれまた聞き慣れないFATF(Financial Action Task Force)=マネーロンダリングに関する金融活動作業部会とい国際的政府間機関の第4次審査が行われるというあまり報道されていない爆弾がある。

 

FATF(ファトフ)はFATCA(ファトカ)と何となく似てはいるものの、全く別物で、事務所はパリのOECD事務局内にあるもののOECDとも組織的には独立した別個のものであり、それゆえCRSとの関連性も低いと考えられる。

 

FATFは1989年にパリで開催されたアルシュ・サミッでの経済宣言を受けて設立された比較的歴史の古い組織であり、当初は麻薬犯罪に関する資金洗浄(マネーロンダリング)の防止を目的とした金融制度の構築を主な目的としていたが、2001年の9.11テロ発生以降は、テロ組織への資金供与に関する国際的な対策と協力の推進に取り組んできている。

 

FATCA、CRSというものを理解した上で次回はこのFATFの影響についてもお話ししたいと思う。