自分の父は医者だったが、医師という職業の尊さと患者に対してあくまで誠実な父の背中を見ながらも、あまり医療の世界には興味を持てなかった。
自分は、根っからのビジネスマンなので、どうしても医療をビジネスの視点からしか見ることができない。
とはいえ、余談だが手塚治虫先生の「ブラックジャック」は、今でも私の大好きな漫画のひとつだ。
最近では移植問題を含む医療業界のタブーに触れた「ブラックジャックによろしく」を読み直したが、これも読んで頂く価値のある作品だと改めて言っておこう。
健康保険など、社会保険によって今のところかろうじて支えられている日本の医療は、必ずしもビジネス的な観点からだけでは片付かない複雑な事情を抱えているようだ。
そして、残念なことに、患者は商売上の客であるにも関わらず、「対価にあった望むべき処置」すらまともに受けることができなくなっている。
KIFMEC(神戸国際フロンティアメディカルセンター)と呼ばれる昨年開業したばかりの先端医療センターが、「生体肝移植しか生きる望みのない患者」に対して、この分野で経験のある田中医師が中心となり国内外の患者に対して積極的に移植治療を施していたが、最近になり生体肝移植の手術を受けた患者9人中、5人が死亡していたことがメディアに取り上げられ世間の注目を集めた。
きっかけは、4月14日のメディア報道だ。
KIFMECの依頼を受けた日本肝移植研究会が調査を行っていることが明らかとなった。
「1カ月以内で5人死亡」などのセンセーショナルなタイトルが並び、最初からKIFMECに問題があるという主旨の報道が多かったが、現実はどうだったのだろう?
東京大学医科学研究所特任教授/上昌広さんが書いている以下の記事にはリアリティーが感じられるので是非読んでみて欲しい。
http://biz-journal.jp/2015/06/post_10299.html
今回のような、一方的なKIFMEC叩きの報道には完全に辟易した。
生体肝移植を受ける患者は、それをしなければ100%死ぬことが決まっている患者ばかりだ。
しかし、その手術の成功率は50%程度しかない。
つまり、9人中5人の患者が術後に死亡していても何の不思議もない。
それをあたかも医療ミスや、医師の暴走であるかのように当初無神経に取り上げてしまったメディアは、その後患者サイドの意見を取り入れて情報を修正しつつあるようだ。
今日も私の知り合いで、KIFIMECの田中医師に生体肝移植によって娘を助けられた友人が、あるメディアの取材を受けている。
この生体肝移植による患者の死亡という事実を、メディアが相当意図的に事故や事件として取り上げてネガティブな印象を与える結果となった背景は、しっかりと見据えなければならない。
上記にリンクを上げた上昌広さんの記事を読んで頂ければ、その背景に潜むものが少しは想像が付くと思う。
正直、患者側からすればどうでも良いことばかりだ。
確かに、お金をもらって、患者が死ぬかも知れない治療を請け負う医師の責任は重大だ。
しかし、もし誰もそのような難易度の高い治療を請け負ってくれなければ、今もこれからも誰も助からない。
認可に関わる利権の問題や、倫理的問題というオブラードに包まれた医学界の権威争いなど、死を前ににした患者やその家族にとっては本当にクソ食らえで何の意味も無い。
今回のメディアの無神経な対応によって、KIFMECというひとつの病院が経営危機に陥ってしまうことは、ビジネスの世界としてドライな見方があるかもしれないが、報道の後、移植そのものが中止になったために手術を受けられるずに亡くなられた方もいたかもしれない。
命に関わることについて、当事者は冷静でいられるはずがない。
もし、この生体肝移植の結果死亡するという事実に対して、生体肝移植を受ける機会を失って何もできずに死ぬ場合と比較して患者やその家族が、実際に何を望むのかをもう少し考える必要があると感じる。
私個人としては、このようなどうしようもない日本の医療についてあまり明るい希望を持ってはいないが、少なくとも世界のどこかで、金さえ払えば、考え得る最高の治療が受けられる機会の到来を望んでいる。
そして、もしかしたらそのために必要になるかもしれない金を一生懸命稼ぐしかないと思っている。