優秀な営業マンは、人よりもたくさんモノを売ります。
ひとにも好かれ、印象もよく、親切で、礼儀正しく、きめ細やかで、思慮深いひとたちです。
ある程度、訓練によってそういった優秀な営業マン(ウーマン)は育ちますが、生まれつきそのような才能を持った人には所詮かないません。
天才的な営業マンは、その才能ゆえに企業の販売戦力として重宝され、一般的には成功し、そしてそれなりの地位や富を築きます。
逆に才能の無い人が、営業職を任されると悲惨な目に遭います・・・。
気を遣い、努力し、それでも空回りして成果は上がらず、ストレスを感じ、結果として自分も担当する顧客も不幸になります。
Gもかつては企業において営業的な仕事を任されていましたし、店舗での販売経験もありますからそのつらさはよくわかります。
若いころの自分は、営業や商売の才能があると思い込んでつっぱていた生意気な若造に過ぎず、実際には凡庸な人間でしたので、かなり空転していました。
ただ、幸運にも多くのひとたちに愛されて可愛がってもらえる得な性格だったために、なんとかやって来れました。
モノを売ったり契約を取ったりする天性の才を持った人が、それなりの経験と適切なツールを手にして、存分に活躍できる戦場(マーケット)に投入されたとき、ほぼ無敵であると言ってよいでしょう。
金融の業界を見ていても、そういった営業の天才的な人たちを多く見かけます。
特に、外資系生命保険会社の方々など、パリッとスーツを着こなして、アタッシュケースを片手にカツカツとやってきて、見事なプレゼンをこなします。
しかし、一見絶対に勝ち目のないこのエリート営業マンとの戦いですが、才能のある人にはそれゆえに欠点もあります。
冷静に物事を考えてみると、本当に優れた商品であれば、「営業など不要である」という観点もあるのです。
かつてGが勤めていたメーカーでは、技術開発には湯水のごとく経費を費やしても、営業にはほとんど力を入れていませんでした。
おそらく今でもそんなに基本方針は変わっていないと思いますが、当時の経営者は「商品の競争力があり、市場でのシェアが取れていれば、営業など不要である。」という考えだったのです。
自社の商品に絶対的な魅力があれば、カリスマ営業マンの魔法に頼らなくても勝手にものは売れるという考えの裏側には、メーカーとして「営業力に頼らなければモノが売れないような会社になってしまうリスク」というのを回避する意図があったのかもしれません。
宣伝も同じかもしれません。
宣伝しなければモノが売れないという考えに囚われてしまうことは大きなリスクです。
カリスマ的な営業戦士の手にかかれば、どんなものでも魔法のように売れてしまいます。
金融商品など、それが良いものであろうが、損なものであろうが、くずのようなものであろうが、プロの営業の手にかかれば夢のような投資商品や安心を手に入れる保険に化けるのです。
商品そのものが圧倒的な競争力を持つオフショアの投資商品にそんな営業は不要です。
優秀な営業マンは、企業にとってミサイルのような攻撃的戦力です。
前述のように、ときにその兵器は企業をスポイルする可能さえ秘めた禁じ手である場合もあります。
優秀な営業マン(ウーマン)が陥りやすい罠というのは、その強大な攻撃力そのものの裏側に潜んでいます。
そもそも営業の才能がある人は、別にモノを売ったり、お金儲けをしたりすることが好きでその才能を発揮する訳ではなく、人の役に立って、感謝されることに喜びを感じてアドレナリンが噴出する人たちだと思います。
つまり、覚醒した営業マンは普通の人たちよりも遥かに強い刺激や感動を受け、その麻薬のような快楽によってさらに大きな成果を継続的に達成していくのです。
天才的な営業マンが対峙する2つの大きな障壁とは、
1)その快感のもととなる営業行為を奪われる場合。また、営業行為が裏目に出てしまうようなマーケットに直面する場合。
売るモノが無い、売ることが許されない・・・といった状況に直面した場合に、才能のある営業マンほど、羽をもぎ取られ、自分の能力を発揮することも認められることも不可能になり、朽ちていく自分に恐れおののくことになります。
世の中には「売られると買いたく無くなるもの」が存在します。
その世界で営業マンほど邪魔な存在はありません。
2)営業そのものは成功していて何の抑制も受けていないが、その成果として得られる金銭や名誉など付加的な報酬に心を奪われて、本来の快楽要素である顧客からの感謝を損なう場合。
それによって、結果として快楽要素を得られなくなり、天才は活動を停止することになります。
いわゆる悪魔に魂を売り渡してしまう場合です。
悪の枢軸に寄与する天才営業マンは、まさに悪魔そのものです。
*ミサイルは、発射されないと火薬が湿気る
*ミサイルは目標に対して正しい方向に撃たなければならない
*ミサイルは敵を大量に殺して、見方に利益をもたらす
「企業の戦略上、営業というものが宣伝とともに、マーケットに対する積極的なアプローチを図るための攻撃兵器である限り、それを使用する企業はプッシュ型のマーケティングから離れることができない」・・・というのが陥りやすい営業戦略の致命的な欠点なのかもしれません。
天才的な営業マンが、ダークサイドに身を落とした同じく天才的な営業マンの放つ悪魔のミサイルを迎撃する、防御専門のミサイル兵器として活躍するときに、その真価を発揮するといっていいでしょう。
しかし、殆どの天才的営業マンは、その罠に陥り、そしてダークサイドに身を落としていくのです・・・。