『北方01基地 隊長 オオノサトシ』
いや、何かの間違いだ…
あの大野さんなわけない…
だって大野さんは、20年前に戦場で
消息不明になったきりで…
もう生きていないだろうと、思っていた。
それがまさか、生きていて、
しかも北方基地の隊長に?
そんなこと、あるわけない…
北方基地は大陸中央に位置する本部からは
距離があり、正確な情報を掴むのは難しい。
だからこの隊員リストだって、
どのくらい信憑性があるのか分からない。
それに、たとえ正しい情報だったとしても、
そんなに珍しい名前じゃない。
同姓同名の別人ということもある。
…そうだ、ありえない。
頭で何度否定しても、
心が騒ぐのを止められずに、
その隊員リストを握りしめて
衝動的に部屋を飛び出した。
向かった先は、情報伝達室。
ノックもせずに勢いよくドアを開けた俺に、
そこの室長は嫌な顔ひとつせず、
いつもの笑顔で出迎えてくれた。
「珍しいねニノ、そんなに慌てて
どうしたの?」
「相葉くん…」
情報伝達室の室長の相葉くんは、軍学校
時代の同期で、敵だらけのこの本部内で
唯一、俺が心を許している人物だった。
学校を出た後、地方の伝令部に配属されて
いた相葉くんは、数年前に突然、この本部の
情報伝達室の室長として中央に戻ってきて、
ここで俺と再会した。
この異例の異動劇…階級飛ばしの大出世…
その裏にどんな事情があったのかは、
知らないし、聞いてもいない。
でも、ここに来るまでに相葉くんが相当な
修羅場を掻い潜って生き延びてきただろう
ことは容易に想像できる。
にもかかわらず、相葉くんの笑顔は、
世界の残酷さなど何も知らなかった
あの頃のままだった。
「なになに?なにがあったの?
我が同期の出世頭にして、常に冷静な
作戦部のエリート様をそんなに焦らす
出来事って…想像つかないなあ…」
面白がるような口調で言いながら、
椅子を勧めて、お茶を淹れてくれる。
「これ…」
例の名前が載ったリストを手渡すと、
さっと目を通した相葉くんが息をのんだ。
「…ニノ、これって…」
相葉くんの言葉に頷く。
「嘘でしょ?ほんとに、あの大野さんなの?
だって大野さんは…」
「分からない…」
「ニノ…」
軍学校の上級生だった大野さんのことは、
相葉くんも知っていた。
大野さんのいた隊が前線で壊滅状態になり、
全員消息不明の報が入った時…
軍を、国を、世界を呪う言葉を泣き叫んで
暴れた俺を…
ただ抱きしめて、一緒に泣いてくれた。
相葉くんは、手にしたリストを俺に返して、
「それで、ニノはどうしたいの?」
「…自分の目で確かめたい。
本当に大野さんなのか」
そう答えると、哀しそうな顔をした。
「気持ちはわかるけど、それは無理だよ」