司令官室を出ると、そのまま本部内にある
自室に向かった。
ドアに鍵を掛けて、デスクから取り出した
煙草に火を点ける。
深く吸い込んで肺の中を煙で満たしてから、
ゆっくりと吐き出した。
―――面倒なことになった。
総司令官が自分をそういう目で見ている
ことは分かっていた。
だけど、あんなにはっきりと要求して
くるとは思っていなかった。
…一度口に出した以上、
逆らうことは許さないだろう。
俺に残された道はふたつ…
おとなしく奴に身体を差し出すか、
ここを去るか…
「………」
―――いっそ、抱かれてしまおうか。
男に身体を開いたことは無かったけれど、
襲われかけたことは何度かあった。
男社会の軍の中にいて今まで無事にこれた
のは運が良かったとしか言いようがない。
別に操を立てる相手がいるわけでもない、
生理的な嫌悪感があるだけだ。
―――目を瞑ってやりすごして、
早々に意識を飛ばしてしまえばいい。
そうすれば、どうってこと…
そこまで考えて、バカらしくなった。
…なんで、こんなことに頭を使わなきゃ
いけないんだ…
俺はただ、作戦を…
ひとりでも多く生き残るための作戦…
誰も無駄死にさせないための作戦を…
それだけに頭を使いたいのに。
ふと窓を見ると、青白い顔をした、
虚ろな目の自分が映っていた。
いかにも男の嗜虐心を煽りそうな容姿に
我ながら嫌気がして、思わず舌打ちした。
…それとも、硫酸でも被るか?
ふためと見れない容姿になれば、
こんなバカげたことで悩まなくて済むかも
しれない。
…選択肢が、ひとつ増えたな。
硫酸を被るのも、総司令官と寝るのも、
大差ない。
心も身体も、邪魔にしかならない。
ただ作戦を考える頭だけ、残ればいい。
考えているうちに短くなってしまった
煙草を灰皿に押し付けた。
そうだ、どちらにするかは
明日にでも決めればいい。
それよりも、今度の作戦をもう少し
詰めておきたい。
特に要となる北方の戦局…
今のままでは、天候しだいで成功率が
99%から90%に落ちる…
ここは基地ひとつをまるまる囮にするので
多くの犠牲をだしてしまう。
だからこそ、絶対に失敗したくなかった。
もう一度情報を見直そうと、
資料を片っ端から手に取った。
その中に、北方基地に駐屯している隊の
隊員名簿があった。
いつも作戦を考える邪魔になるだけだと、
極力見ないようにしている名簿…
いつものように目を滑らせて流そうとして、
とある一点で、目が留まった。
と、同時に、思考も止まった。
―――――…!?
急に動悸が激しくなり、
冷や汗が額を伝う。
頭はぐるぐるして何も考えられない。
ありえない…
そんなこと…
そこにあった文字は―――
『北方01基地 隊長 オオノサトシ』
それは、未だに忘れられない、
忘れたことのない名前。
その名前が
なんで…
―――俺の立てた作戦で囮となって、
近々全滅する予定の隊員リストの中に…