1月20日に富山のオーバードホールで初日の幕を開けた『ドン・ジョヴァンニ 』。その後1月26.27日に東京芸術劇場で、2月3日に熊本県立劇場にて千秋楽、と、無事に全公演を終えました。
(©︎Hikaru.☆)
1月4日から本格的な立ち稽古が始まり、(ダンサー稽古やシーンごとの稽古、音楽稽古はもっと前からはじまっていました)、情熱と時間と体力とをフルに使って、夜も眠れなくなるぐらい本当に毎日『ドン・ジョヴァンニ 』のことばかり考えて過ごしました。オペラは熱中するとそうなってしまうので、終わった後、頭を整理するのに時間がかかります。たくさんの思いがありすぎて言葉にするのが難しい。千秋楽から1週間が経ったので、このあたりでブログを書き、総括をしたいと思います。
今回は2015年の『フィガロの結婚』に次いで、全国共同制作企画としてはモーツァルト作品2作目となります。『フィガロの結婚』は野田秀樹さんの演出で、演劇とオペラの融合が目玉でした。役者さんが10人出演し、台詞が入ったり、登場人物の心情を表現したり。一方今回は、演出がダンサーの森山開次さん。ダンスとオペラの融合が大きなポイントとなりました。
演出の森山開次さんと
オーディションでお会いした時には会話はしなかったので、第一印象で怖い方なのかもと思い、稽古が始まるまでドキドキしていました。でも稽古場でお会いするととても優しくて思いやりのある方だとわかりました。心の中にいつも情熱の炎を燃やしながらも、まわりの人たちが火傷しないように優しい防炎の衣を身に纏っているような、そんな感じでしょうか。
今回の演出ではオーディションで選ばれた女性ダンサーが10人出演しました。クラシック出身が4人、コンテンポラリーやモダンなどのダンスが6人、新体操が2人。どのダンサーも鍛えられた体と素晴らしい表現力を持ち、森山さんはそれぞれの個性や得意な部分を活かすような振り付けをしていました。初めて序曲でのダンスを見たときに震えがくるぐらい感動したのを覚えています。私だけでなく、みんなが感動した印に、稽古場で大拍手がおきました。
ダンサーさん達はこちら
左から梶田留衣、水谷彩乃、碓井菜央、山本晴美、浅沼圭、庄野早冴子、引間文佳、脇坂優海香、南帆乃佳、中村里彩(敬称略)
この10人のダンサーさん達は、皆それぞれこれからの日本のダンス界に無くてはならない存在なのだと思います。
今回のキャストは32歳〜42歳という、歌い手としては若手が集まっていたのもあり、和気あいあいと仲良く楽しいメンバーでした。
こちらはキャスト
左からデニス・ビシュニャ(騎士長)、近藤圭(マゼット)、小林沙羅(ツェルリーナ)、鷲尾麻衣(ドンナ・エルヴィーラ)、ヴィタリ・ユシュマノフ(ドン・ジョヴァンニ )、高橋絵理(ドンナ・アンナ)、三戸大久(レポレッロ)、金山京介(ドン・オッターヴィオ)(敬称略)
特に今回は女性歌手はソプラノが3人

3人がそれぞれ違ったキャラクターで声質も違い、性格も含めて三者三様。だからこそお互いがお互いを面白がり合いながら尊敬しあう、とてもいいバランスで、毎日とても楽しかったです。
絵理さん、麻衣さん、大好き

高橋絵理さんとは次の現場、秋田での『ボエーム』でも一緒です。(2月17日秋田のアトリオン音楽ホールにて詳細はこちら)
今回の衣装は廣川玉枝さん。本当に美しい衣装でした。廣川さんご自身もお美しい方です✨(廣川さんのブランドSOMARTAの公式HPは
こちら)
富山、東京、熊本共にたくさんのお客様に来て頂けて嬉しかったです!公演が終わるたびに演出もどんどん変化していき、オーケストラも合唱団も地方によって違い、一回一回の公演が初日のような気持ちでした。たくさんのブラボーや拍手、嬉しかったです。スタンディングオベーションもありました

こちらは富山にて。みんないい笑顔!
こちらは東京(合唱の皆さんと写真撮りそびれた

)
こちらは熊本。
終演後、ロビーで撮影大会になりました。
熊本のGP後には、スタッフさんも一緒にみんなで撮りました

出演者もスタッフさんも、皆で『ドン・ジョヴァンニ 』をいい公演にしよう、という共通の目的を持って一緒に稽古を重ね、本番を重ねて来たので、熊本公演が終わって「またいつか、現場で一緒になれますように」と思いながら散り散りになるのがとても寂しかったです。もう何公演かやりたかった!
今回は井上道義マエストロがとてもこだわって日本語訳を作られて、皆で何度も歌ってみて変更を重ねながら言葉を当てはめていきました。もともとイタリア語の台本があってそれに合わせてモーツァルトが音楽を作ったのですから、それに日本語を当てはめるのは本当に難しい。それをわかった上で、皆で歌い方も含め、最善を目指して頑張りました。特に日本語が外国語であったデニスとヴィタリにとっては本当に大変だったと思います。二人とも本当にブラービ!!!
「日本語だったので聴きに行ってみようと思った」「言葉がすっと入って来てわかりやすかった」という声がたくさんあり、特に富山と熊本では成功だったと感じました。東京では芸術劇場がとても響くホールなので座った位置によっては言葉が聴き取りにくかったという声もありました。それはたぶんイタリア語で歌ってイタリア人が聴いていても同じだったと思われます。。ただ、日本語のはずなのに聴き取りにくい…というのはお客様のストレスになったかなと思い、東京ではレチタティーヴォも字幕を入れた方が良かったかもな…と個人的には思います。
しかし、今回、「ダンス」と「日本語」というのは確かに大きなポイントではあったのですが、でも、森山さんが『ドン・ジョヴァンニ 』の作品を通して伝えたかった本質の部分は、そこじゃない!!!
今回の舞台は女性の子宮をイメージした作りになっていました。卵巣も卵管も、ちゃんとあります。全てのドラマは女性の体内で起こっていたのです。
最後、ドン・ジョヴァンニの地獄落ちのシーンではダンサー達が絡みつき、赤く太く長いものが彼に絡みつき、彼は子宮の外に押し出されます。このシーンは怖く、美しく、圧巻でした。
上の写真は富山公演でのものですが、東京以降はここはドン・ジョヴァンニが半裸になりました。合唱団のあり方も熊本公演に向けて変わりました。森山さんがこのシーンにどれだけ思い入れがあったか、よくわかります。
ドン・ジョヴァンニの地獄落ちのあと、「これが悪者の終わりだ、最後だ」と、女性が男性にドクロを突きつけながら歌う6重唱。森山さんは出演者にさえ多くを語らず、それぞれの解釈で歌ってくださいとおっしゃいました。「死んで行く時はこの通り、何も恐れずそのままで死んで行く」。
ご覧になった皆さんは何を感じ、何を思いましたか?