■[末期ガン治療]「ガンは早く見つければ長生きできる」は本当か?
「ガンは早く見つけて、早く治療するほどいい」。そう信じて、毎年欠かさず検診を受けている人は少なくありません。しかし、精神科医の和田秀樹先生と元厚生労働省医系技官の木村盛世先生は、「ガン検診を受ければ寿命が延びる」と言い切れるだけの証拠は、今のところ十分ではないと指摘します。
さらに、ガン検診には、本来なら治療する必要のないガンまで見つけてしまう「過剰診断」という問題もあるといいます。早期発見は本当に、私たちを長生きさせてくれるのでしょうか。二人が、ガン検診の“常識”を問い直します。
●ガン検診で寿命が延びるという証拠は今のところない
木村盛世先生(以下、木村先生):健康診断でベネフィットを得ているのは、基本的に医者や医療機関のほうですよね。そこにベネフィットがある限り、健康診断を推奨する構造は変わらないでしょう。だから、受ける側が自分はなんのために健康診断を受けるのかを冷静に考える必要があるんです。まあ、会社の命令で受けるしかない人もたくさんいるのでしょうけど。
和田秀樹先生(以下、和田先生):日本では、「ガン検診」についても「絶対に受けたほうがいい」という空気がありますよね。
木村先生:「発見が遅れると命に関わる」みたいなことがさかんに言われていますからね。ただし、どのガンについても「早期に治療を開始した人、治療しなかった人」を大勢集めて、生存期間を比べるような試験は日本では行われていません。つまり、「早期発見、早期治療」を目的としたガン検診に寿命を延ばす効果があるのかないのかは、よくわかっていないのです。欧米では大規模RCTが行われていますが、「早期発見が延命に役立つ」という証拠になる結果は出ていません。だから「ガン検診を行って、早期発見、早期治療をしても人々の寿命は延びない」というのが信頼性のある結果として欧米では受け入れられつつある「事実」なのです。
和田先生:それなのに日本では、国も医師会も、そして多くの医者も「早期発見、早期治療が大切だ」と言い続けていますよね。
木村先生:そうなんですよ。たとえば乳がんにしても、2009年からは「女性特有のがん検診推進事業」と称して地方自治体で大々的に無料クーポンを配ったりして、受診を強力に後押ししました。その結果、乳がんの発見数は1980年代の3倍以上にも増えていますが、乳がんの死亡率は大きく減ってはいません。
●アメリカでは20代は乳がん検診の対象外
和田先生:要するに、早く見つけて治療する人が増えても、結局乳がんで死ぬ人の割合はあまり変わらないということですよね。
木村先生:そういう事実があるのに日本では、乳がん検診の積極的な推進を国をあげてしています。先日もジムに行ったら「20代から積極的に乳がん検診を受けましょう」という大きなポスターが貼られていて、暗澹たる気分になりました。アメリカでは権威ある学会が「乳がん検診は受けるほど良いというわけではない」という勧告を出したときに、患者団体や乳がん支援団体などが大きく反発するようなことがあったので、検診そのものは継続されることになったのですが、それでも対象年齢は40〜74歳です。20代から検診を受けろなんていうことは誰も言っていません。胸部X線検査についても、欧米の5つ以上の大規模なRCTで有用性が否定され、欧米では「肺がんを見つけ出す検査として胸部X線検査は推奨できない」としています。
和田先生:ところが日本では40歳以上の人は年1回、胸部X線検査による肺がん検診を受けることがいまだに推奨されていますよね。
木村先生:本当に信じられない話ですよ。一方で、S字結腸の内視鏡検査が、S字結腸がんによる死亡率を減らすという報告は確かにあります。ただし、その程度はごくわずかでした。
和田先生:いずれにしても、特定のガンで死ぬ可能性を減らすことと、総死亡率を下げること、つまり寿命を延ばすことは別の話だということです。
木村先生:そこに注意が必要ですよね。特定のガンでは絶対に死なせないという目的であれば、検診に一定の効果はあるのかもしれません。でも、ガンは体中どこにでもできますからね。一つの臓器のガンを治しても、ほかの臓器にできる可能性はいくらでもあります。特定のガンでの死亡率が下がったとしても、別のガンの死亡率まで一緒に下がるわけではありません。
●なぜガン検診で過剰診断が起きるのか
和田先生:この20年でガン検診の受診率はかなり上がっていますが、それに比例するように総死亡率が劇的に改善しているかと言えば、決してそうではありません。総死亡率が下がらないのは高齢化のせいだと言う人もいますが、少なくとも「ガンを早期発見・早期治療すれば人はどんどん長生きになる」という単純な話ではないんですよ。
木村先生:むしろ欧米では「ガン検診」に伴う過剰診断や、そこから生じる余計な治療がかなり問題視されていますからね。
和田先生:寿命を延ばす強いエビデンスがない一方で、デメリットもあるということですよね。
木村先生:ダートマス大学のウェルチ教授によると、ガンと呼ばれるものの中には「カメ」と「鳥」と「ウサギ」がいるそうです。進行スピードが遅いので特に治療する必要がないのが「カメ」、たとえ早期発見しても進行があまりに早すぎて治療しても助からないのが「鳥」です。唯一治療することに意味のあるガンが「ウサギ」です。
●「治療意義のあるガン」を判別することができない
和田先生:2022年に亡くなられた近藤誠先生も、そのようなことをおっしゃっていましたよね。
木村先生:はい。近藤先生のお考えも基本的には同じです。そして問題は、少なくとも今のガン検診には、この3つのタイプを区別する能力がないということです。つまり、「カメ」であろうと「鳥」であろうと、「ウサギ」であろうと、「ガン」として発見されるのです。もしもそのガンが「カメ」だった場合、本来ならそのまま放っておけば良いのですが、「鳥」や「ウサギ」との判別ができないので、見つかれば手術や抗がん剤などの治療が開始されます。それで死なずにすんだら「早期に発見して、早期に治療したおかげだ。やっぱりガン検診を受けてよかった」と思うかもしれませんが、放っておいて何の問題もなかったはずのものが、あたかも治療によって治ったかのように見えているだけです。実際には治療の必要がない「カメ」に対して不必要な治療が行われているのですから、むしろそれは「ガン検診」で過剰診断が起きたことによる弊害なんですよ。
■教えて下さったのは・・・
●和田 秀樹(わだ・ひでき)先生
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。ベストセラー『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『60歳からはやりたい放題』『90歳の幸福論』『60歳からはやりたい放題[実践編]』『医者という病』『60歳から女性はもっとやりたい放題』『ヤバい医者のつくられ方』『65歳、いまが楽園』『なぜあの人はいつも上機嫌なのか』『「高齢者ぎらい」という病』(すべて扶桑社)など著書多数。
●木村 盛世(きむら・もりよ)先生
医師、作家。筑波大学医学群卒業。米ジョンズホプキンス大学公衆衛生大学院疫学部修士課程修了。同大学でデルタオメガスカラーシップを受賞。米国CDC(疾病予防管理センター)プロジェクトコーディネーター、財団法人結核予防会、厚生労働省医系技官を経て、パブリックヘルス協議会理事長。著書に『ヒポクラテスの告発 天然痘を根絶した蟻田功の遺言』(藤原書店)、『医者にかからない幸福』(ビジネス社)、『新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか』(飛鳥新社)、『厚労省と新型インフルエンザ』(講談社現代新書)、『厚生労働省崩壊 「天然痘テロ」に日本が襲われる日』(講談社)など。
私の父の「末期癌奇跡の完治闘病記サイト」や
「西洋医学による癌治療・検査などをまとめたサイト」への
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