米国FDA(食品医薬品局)は、プロピレングリコールやグリセロールを含む18物質をHPHC(有害物質および潜在的に有害な成分)リストへ新たに追加する方針を明らかにしました。この2つは加熱式タバコのスティックや電子タバコのリキッドに加えられている物質であり、HPHCリストへの追加が確定されれば、その影響は大きいものです。
●HPHCって何?
HPHC(Harmful and Potentially Harmful Constituents)とは、タバコ製品やその煙などに含まれる成分中で、ガンや呼吸器疾患などの健康被害を引き起こす危険性のある、または潜在的にそのリスクがある物質のことです。潜在的なリスクとは、現状ではエビデンスが不足していますが、化学的特性やこれまでの研究から将来的に健康被害につながる危険性が高いという意味となります。
米国の規制当局であるFDAはタバコ会社に対し、タバコ製品に含まれるHPHCの種類や量などの情報を開示させ、定期的に報告する義務を負わせています。HPHCには、葉タバコなどの材料を構成する成分のみならず、燃焼や加熱の過程、あるいは添加物同士の化学反応などによって発生する恐れのある全ての物質が含まれます。
このHPHCのリストに今回、プロピレングリコール、グリセロール、そして2つの物質の不純物であるジエチレングリコールなど、18物質が新たに加えられ、FDAが定めるHPHCは合計111物質となりました。
●プロピレングリコール、グリセロールとは
では、なぜFDAはプロピレングリコール、グリセロールをHPHCのリストに加える方針を固めたのでしょうか。
プロピレングリコールは化学添加物や食品添加物として生麺や唐揚げの肉、シャンプーなどに使われ、グリセロールも医薬品や食品添加物などに広く使われている化学物質です。医薬品のごく一部で吸引用に使われることもある物質ですが、これまでコンシューマ向け製品で、これらを気化させ、呼吸器に吸い込むという使用法は想定されて来ませんでした。
加熱式タバコのスティックや電子タバコ用リキッドには、ニコチンなどのタバコ成分を気化させ、喫煙者が吸入するための媒介として、あるいは葉タバコを保湿したり吸い心地を高めるなどのためにプロピレングリコールとグリセロールが添加されています(※1)。
日本の研究グループが、加熱式タバコから発生したガス状および粒子状物質を調べたところ、各種の加熱式タバコ製品(報告された2018年当時の製品)からプロピレングリコールとグリセロールが多量に検出されたといいます(※2)。例えば紙巻きタバコと比較し、加熱式タバコではより多くのプロピレングリコール(240マイクログラムから850マイクログラム)が含まれていました。
アイコスのHEETSというスティック14種類(レギュラー、メンソール、ミントなど)の成分を調べた研究によれば、プロピレングリコール、グリセロール、トリアセチンが含まれていることがわかっています(※3)。トリアセチンはFDAのHPHCリストに記載されていませんが、プロピレングリコール、グリセロールの分解を促進させ、より毒性を強める役割を果たすことが指摘されています (※4)。
アイコス(IQOS)を製造販売しているフィリップモリスの研究グループが出した論文でも、スティックにプロピレングリコール、グリセロールが入っていることが示されています(※5)。特に、グリセロールは紙巻きタバコよりも多く入っており、全成分中でも2番目に多い成分だったといいます。
また、アイコスを含む加熱式タバコの製品に、どのような成分が含まれているかを分析した研究によれば、分析対象の5種類の製品全てからアセトアルデヒド(34.35マイクログラムから72.11マイクログラム/1スティック)、プロピオンアルデヒド(3.28マイクログラムから8.58マイクログラム/1スティック)、ブチルアルデヒド(3.07マイクログラムから6.20マイクログラム/1スティック)が検出されたといいます(※6)。
アセトアルデヒドは発がん性が疑われ、呼吸器毒性があり、ニコチンの依存性を高める作用のある物質で以前からFDAのHPHCリストに入っています。また、呼吸器毒性や心血管毒性のあるプロピオンアルデヒドは以前からHPHCリストに入っており、呼吸器毒性があるブチルアルデヒドは今回、追加が提案されたHPHC候補リストに入っています。
●無視できない健康への悪影響
では、プロピレングリコール、グリセロールをタバコ製品に加えた場合、どのような健康への悪影響が生じるのでしょうか。
電子タバコ用リキッドのプロピレングリコール、グリセロールを調べた研究によれば、加熱されることで強い発がん性のあるホルムアルデヒドや毒性をもつアクロレイン、アセトン、ジアセチル、ベンゼンなどの有害物質が発生するといいます(※7)。これらの有害物質は摂氏250度を超えると急激に増えますが、加熱式タバコの多くは摂氏300度以上になります。
また、加熱されなくても2つの物質は、細胞毒性を示したり、気道の炎症や気道粘膜の過剰濃縮などを引き起こす危険性があるという研究も多くあります(※8)。こうした研究は電子タバコ用リキッドのプロピレングリコール、グリセロールについてのものですが、加熱式タバコのスティックにも添加されていることに注意して下さい。
今回の米国FDAによるプロピレングリコール、グリセロールなどのHPHCリスト追加は、加熱式タバコを製造販売しているタバコ会社にとって痛手になる可能性が高いものです。なぜなら、この2つの物質は加熱式タバコにとって必要不可欠な添加物であり、今後、その毒性や健康への影響の評価を再検証しなければならなくなるからです。
加熱によって毒性が生じることで、より低温で喫煙者を満足させる製品開発を迫られることも考えられます。さらに、内部情報などが開示され、もしタバコ会社がこれら物質の有害性を知りつつ、スティックに添加してきたことなどがわかった場合、米国などでは巨額の賠償を伴う訴訟リスクも生じるでしょう。
ただ、これは米国の規制当局の方針であり、日本のようなタバコ会社にとって居心地のいい環境では、これまでどおりの成分を含んだタバコ製品が堂々と売られ続ける危険性が高い。いずれにせよ日本の喫煙者は、自衛のためにもこうしたタバコ製品に対する米国などの規制情報をよく知っておくべきでしょう。
※1:Yuxing Tong, et al., "Effects of Glycerol and Propylene Glycol on Smoke Release of Heat-not-burn Tobacco Products" Journal of Physics: Conference Series, DOI 10.1088/1742-6596/1802/2/022025, 2021
※2:Shigehisa Uchiyama, et al., "Simple Determination of Gaseous and Particulate Compounds Generated from Heated Tobacco Products" Chemical Research in Toxicology, Vol.31, Issue7, 585-593, July, 2018
※3:Adrielle Xianwen Chen, et al., "A Simple Method to Simultaneously Determine the Level of Nicotine, Glycerol, Propylene Glycol, and Triacetin in Heated Tobacco Products by Gas Chromatography-Flame-Ionization Detection" Journal of AOAC International, Vol.105, 46-53, 14, October, 2021
※4:Shawna Vreeke, et al., "Triacetin Enhances Levels of Acrolein, Formaldehyde Hemiacetals, and Acetaldehyde in Electronic Cigarette Aerosols" ACS Omega, Vol.3, Issue7, 7165-7170, 2, July, 2018
※5:Gerhard Lang, et al., "Non-targeted analytical comparison of a heated tobacco product aerosol against mainstream cigarette smoke: does heating tobacco produce an inherently different set of aerosol constituents?" Analytical and Bioanalytical Chemistry, Vol.416, 1349-1361, 13, January, 2024
※6:Efthimios Zervas, et al., "Carbonyl emissions from heated tobacco products" Tobacco Prevention and Cessation, Vol.12, Article 11,
February, 2026
※7-1:R Paul Jensen, et al., "Hidden Formaldehyde in E-Cigarette Aerosols" The NEW ENGLAND JOURNAL of MEDICINE, Vol.372, No.4, 22, January, 2015
※7-2:Ping Wang, et al., “A Device-Independent Evaluation of Carbonyl Emissions from Heated Electronic Cigarette Solvents” PLOS ONE, doi:10.1371/journal.pone.0169811, 11, January, 2017
※7-3:Yehao Sun, et al., “Toxicity of Humectants Propylene Glycol and Vegetable Glycerin in Electronic Nicotine Delivery Systems” Toxicology Letters, doi.org/10.1016/j.toxlet.2025.111739, 1, October, 2025
※8-1:Moegi Komura, et al., "Propylene glycol, a component of electronic cigarette liquid, damages epithelial cells in human small airways" Respiratory Research, Vol.23, article number216, 23, August, 2022
※8-2:Michael D. Kim, et al., "The combination of propylene glycol and vegetable glycerin e-cigarette aerosols induces airway inflammation and mucus hyperconcentration" scientific reports, 14, Article number: 1942, 23, January, 2024
※8-3:Khyati Mittal, et al., "Propylene glycol and vegetable glycerin e-cigarette aerosols impact mucociliary function and cause cytotoxicity in human airway epithelium" scientific reports, Vol.16, Article number: 3158, 19, December, 2025
■教えて下さったのは・・・石田雅彦先生