- 冬の鷹 (新潮文庫)/新潮社
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訳者前野良沢の名は記されなかった。
出版に尽力した実務肌の相棒杉田玄白が世 間の名声を博するのとは対照的に、
彼は終始地道な訳業に専心、孤高の晩年を貫いて巷に窮死する。
わが国近代医学の礎を築いた画期的偉業、「解体新書」成立 の過程を克明に再現し、
両者の劇的相剋を浮彫りにする感動の歴史長編。
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人物描写における杉田玄白との対比が面白かった。
普通に考えれば、何事においてもそこそこの所で妥協して調和を図る玄白の方
が賢い生き方なのだろうけれど、そこを妥協しない良沢に憧れる。
頑なに名利を求める事を避けた良沢。
その態度は
「僕は忠義をするつもり、諸友は功業を成すつもり」
と言う言葉を遺した吉田松陰にも似たものを感じた。
(もっとも人当たりの良さにかけては、似ても似つかない様な描かれ方だったけれど・・・)
ちなみに、この小説の最後の方に高山彦九郎という人物が登場する。
主人公の良沢と親しかったらしいが、後に尊王攘夷活動に身を投じ命を落とす。
彼の戒名は松陰以白居士。
幕末の思想家・吉田松陰はその号を上記戒名に因んで定めたらしい。
・・・松陰の号の由来は吉田松陰のWikiにも書いてあったけれど、長州系志士の
Wikiはまともに読んだ事がなかったので、本書で初めて由来を知った。