絵本風『上の階のろぼっと』☆ (全文掲載) | 札幌 家庭教師・物語作家わたなべ~小どもたちへの手紙~

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(現在は何気ない日常をアップしています)

 

あけましておめでとうございます爆  笑

昨年は皆様に大変お世話になりました!

今年も新たな展開など、どんどん進めていきたいと思っています。

これからもどうぞよろしくお願いいたします☆

 

 

さて、それでは新年最初の記事ですが、

このところ本業になってきている文章書きからひとつアップいたします(^^♪

絵本のつもりで書きました!

 

 

では、どうぞ~ウインク

 

 

↓↓↓

 

 

 

『上の階のろぼっと』



 ガタガタごろごろ
 ずずずズズズ
 ガラガラガラガラ
 ごとん コロコロコロ

 今日も上の階からあの音がする。
 
 ざざあ ざざあ
 ジャー
 ずんずん ずんずん

 ぼくはこのごろ早起きしてしまう。学校に行く時間のずっと前から、この音が聞こえてくるから。

 ばたん! ……ころころころ
 ガチャン、コンコンコン
 
 かちゃん

 これはぼくの部屋のドアが開いた音だ。
「もう起きたの? ゆうくん」
とお母さんがドアから顔だけ見せて言う。
「うん。またあの音だよ。気になって目が覚めちゃう」
「何も心配ないから、もう少し寝ていていいよ。ご飯もまだだよ」
「はーい」
 
 お母さんは心配ないと言うけれど、ぼくは気になる。だから、学校から帰ったあと、上の階に行って、背伸びをしてインターホンを押してみた。

 ぴんぽーん

 だれも出てこない。

 ぴんぽーん
 ゴツン ガチャリ

「ドナタデスカ?」
 
 びっくり

 これはぼくの気もち。
 玄関を開けたのは、へんてこな形のロボットだ。ぼくより背が大きくて、まるっこくて、けれどごつごつしている。

 ぴーん

 ロボットの肩から何か飛んできた。

「ア、スミマセン。バネガとビマシタ」
 ぼくは外へ転がったばねを拾って、ロボットに返してあげた。
「アリガトウゴザイマス」
「あの、すごく早起きですね。朝から何をしてるんですか?」
 ロボットはぎこちなく頭を下げた。
「スミマセン。ウルサカッタデスカ。あぶらヲさスノニじかんガカカルノデ、はやおキヲシテイマス。ふるイノデス」
 話す言葉はゆっくりで、動きも遅かった。
「マタチョットあぶらガきレテキマシタ。しつれいシマス」
 
 ゴン、ゴン、ゴン

 身体が上手に回転せず、ロボットはドアのふちに何度もぶつかった。ぼくがひっかかっている場所を押し込むと、

 ズリズリ、ズリ

「アリガトウゴザイマス」

 ぼくはロボットと一緒に部屋へ入ってしまった。知らない人のお家に行くときは、お母さんに言わなきゃダメなのに。

 どきどきどき

 中の様子はよく見えない。見えるのはロボットの大きな背中だけ。廊下の幅いっぱいに、ゆっくりと奥へ進んでいく。
「ナルベクちゅういシテイルノデスガ」
 だんだんとスピードが遅くなって、ロボットは動かなくなった。
「コレハきんきゅうじたいデス。もうシわけナイノデスガ、あぶらヲあしのつケねに……」
「え、どこ? 油?」
 ぼくがたずねても答えはなく、

 ぴーん

「入っていいの?」

 ぴーん、ぴーん

 ばねで返事をしているのかな。ぼくはロボットの脚の間をくぐって、部屋の中に入って、大きな油のボトルを持ってきた。

「どこ? このへんでいいの?」

 ぴーん

 ぼくはボトルの先をロボットの脚に差し込んで、油を垂らした。
「アリガトウゴザイマス、うでニモすこシ」
「しゃべれるじゃん」
「せつやくデス」
 腕に油を差してあげると、ロボットはボトルを自分で持って、口にも油を含んだ。
「たすカリマシタ。コノトコロいそがシクテ、なまケテイタノデス」
「もう大丈夫?」
「ハイ、アリガトウゴザイマス」

 次の日の朝は少し静かだったけれど、ぼくはまたロボットの部屋へ行ってみた。やっぱりのろのろした動きでロボットは玄関に出てきた。
「ドウシマシタ、コンニチハ」
「こんにちは。何でもないですけど、油は切れていない?」
「きょうハちょうしガヨイデスヨ。デスノデ、――ん、ん、こんな風に話すこともできます。昨日は本当にお世話になりました。お名前は?」
 
 きりっ

 これはロボットの顔つき。言葉もとても上手。
「すごいね。ぼくはユウタといいます。あなたは?」
「ユウタ君ですか。私はロボットです。確か名前もありましたよ……」
 ぼくを部屋の中へと招いて、ロボットはゆっくりゆっくり歩き始めた。全然進まなくて、ぼくは脚の間を通って先に奥へ向かった。
「歩くのは遅いんだね」
「遅いといいますか、そうですね、私はこういう速さです」
 おやつを食べられそうなくらい時間がかかって、ロボットは部屋の中に到着した。普通の家具やテレビが置いてある。ロボットは隅の箱のところへゆっくりと移動して、ふたを開け、何かを探す。

 ごそごそ、ガサガサ

「おかしいですね、名前が見つかりません」

 ごそ、ガサ……

「腰の油がなくなってきています。ユウタ君、またお願いできますか」
 ぼくは油のボトルを腰に差してあげた。
「はい、ちょうどいいです、ありがとうございます」
「なんだかのろまだね。『のろぼっと』って呼ぼうかな」
「それがお好みなら」
「じゃあのろぼっと、また来るね」

 ぴーん

 のろぼっとは上半身をひねってぼくを見ながら、ばねを飛ばした。

 何日かして、のろぼっとのインターホンを押すと、
「ドウゾー! はいッテキテクダサイ、かぎハあイテイマス」
 とのろぼっとが言っているのがドア越しに聞こえた。ぼくは「お邪魔します」とあいさつをして、部屋に入った。
「イラッシャイ。ん、ん、こんにちは。ユウタ君、ここが気に入りましたか?」
「まあね。のろぼっとおもしろいし。いつも何してるの?」

 しーん

 油が切れたのかな。のろぼっとはしばらく動かず、返事もしなかった。
「大丈夫?」
「はい、失礼しました。秘密のことですので、ユウタ君に教えてよいものかどうか、考えていたのです」
「なになに?」

 わくわく

「私は、世界中の人に夢を配るお仕事をしているのです。ユウタ君も夜に夢をみるでしょう?」
 ぼくはうなずいた。のろぼっとは両手を動かして説明しようとするけれど、ゆっくりすぎて、まだ片手が膝から上がってきたくらいだ。
「その夢をみなさんから受信して、整理して、配信しています。ほら」
 
 ギギギ、ギギギ

 のろぼっとは途中で腕の軌道を変えて、ゆっくりと自分のお腹のふたを開いてくれた。そこには、数えきれないくらいの映像や文章や音が飛び交っていて、ちょっとの時間見ているだけで疲れてしまいそうだ。
「このごろは種類も数も増えて大変です。自分でどんな夢を見たいのか分からない人や、夢を見るのが怖いという人もいるのです」
 
 ごー、ごー

 これはのろぼっとが背中から出す空気の音。
「あんまり夢を見なくなった気がするのも、そのせいなのかな」
「きっとそうだと思いますよ。――そうだ、ユウタ君、よければちょっと手伝ってくれませんか。どういう夢がよいか、意見が聞きたいのです。私のお腹の中をもっとのぞいてください」
 ぼくはのろぼっとのお腹の中へ顔を突っ込んだ。



 

 しゃらりしゃらり

 幼い女の子が歩いている。どこかの国の王女様だ。毎日お城で勉強に、楽器の演奏に、踊りに忙しい。悪い魔女を退治するためには、自分が強くならなければならないのだ。

「コノゆめノつぎノてんかいハ、ドウシタラヨイデショウカ?」
「まずは魔女とおしゃべりしに行ったらいいと思う。悪いやつかどうか分からないから」
「ナルホド」



 

 ひゅううん、ひゅううん

 鳥になったおじさんが気もちよさそうに空を飛んでいる。どこまでも行けそうだ。太陽がこんなに温かかったなんて。雲がこんなにおいしかったなんて。
 目の前にいきなり暗いトンネルが現れた。どこへ続くのだろう、自分の家か、見たこともない場所か。

「コチラニツイテハ?」
「お家に電話して、懐中電灯を持ってきてもらおう。変なところにつながるトンネルだったら、途中で引き返して」
「フムフム」

 ぶくぶくぶく

 カフェで一休みしている女の人のコーヒーカップから、湯気と一緒に真っ白な巨人が湧き上がっている。女の人は巨人とじゃんけんを始めて、ずっとあいこが続く。巨人は足から少しずつコーヒーの中へ沈んでいった。

「しょうぶガきマリマセンネ」
「ぼくも入ろうかな、あ、でももっとあいこになっちゃうか。しりとりにしよう」
「ウシ」
「しまうま」
「マントヒヒ」
「昼休み」
「ミ、ミ……イエ、スミマセン。ナルホド、たのシクナリソウデス」

 すー、すー

 のろぼっとの背中から出る風もやわらいだ。
「フウ、――んん、大変助かりました。どのように進めるとよいのかが、一番むつかしいのです」
「夢だから自由だと思うけど。のろぼっとは夢を見たことないの?」
「私は眠りません、ノデ、ゆめハ、みナイノデスヨ」

 きゅるきゅるきゅる

 お腹の奥から不思議な音をさせて、のろぼっとは止まった。ぼくはそのお腹に油を流し込んであげた。

「アリガトウゴザイマス。コンナわけデ、あぶらノしょうひモはげシイノデス」
「休んだほうがいいよ。お昼寝しよう」
「おヒルネ、ドウヤッテ?」
「横になって、目を閉じるだけ」

 グググ、ギギギ、がつん
 ガタ、ごん、バタン

 周りの家具に身体をぶつけながら、のろぼっとはゆっくりと横になった。横になっても形が変わらないから、お腹はぼくの背の高さくらいある。

「めハとジナイつくリナノデスガ」

 ぼくはのろぼっとの頭に布をかけてあげた。



「おやすみ」
「オやすミナサイ、ユウタくん」

 じゅーじゅー

 あれれ

 ぼくが料理をしている。そこらじゅうにあるスパイスを鍋に入れて、お肉やお魚、野菜を焼いて、煮込んで、ごちそうしようとしている。テーブルについているのは、のろぼっと。
のろぼっとの前にはナイフとフォークが用意してある。まだ料理ができあがる前だけれど、のろぼっとはゆっくり腕を動かし始めている。

「オヤ、コレハ」
「いつも油ばっかり食べてるから、ぼくがおいしい料理を作ってあげる」
「オオ、コレガゆめデスカ。わたしモみなサンノゆめデ、おおクノたベものヲみテキマシタガ、じぶんガたベルノハはじメテデス」

 ぐつぐつ、ぐつぐつ

 具だくさんでとってもおいしそうなスープができた。ぼくが皿に盛りつけてあげると、ちょうどスプーンを手にしていたのろぼっとは、たっぷりとすくって口へ運んだ。



 

 ピカーーン

 のろぼっとの頭のてっぺんのライトが光った。
「スバラシイデス。オイシイデス。わたしモみなサンガたベルモノヲ、たベテミタカッタノデス」
「ね、おいしいでしょ」

 ピカピカーン

 ぼくとのろぼっとは、テーブルいっぱいのご飯を堪能した。ぼくはどんどん食べて、のろぼっとはゆっくりと。

 ピカピカ、ピカピカ
 くい、くい、くい

 目をさますと、のろぼっとの頭が光っていた。布がかかったままの頭を回して、周りを見ているみたい。ぼくはしばらく眺めていた。

 トントン、トントン

 のろぼっとの肩をたたくと、
「オオ、オ、……ユウタくん。わたしハなにヲシテイタノデショウ」
「よく寝てたよ」
「ユウタくんトゴはんヲたベマシタ」
「夢を見たんだね」
「ソノヨウデス。――デハ、だれガわたしニゆめヲ?」

 ういーんういーん
 ガチャン

 上半身だけ起こして、のろぼっとは考え込んだ。
「ぼくも同じ夢を見た気がする」
「ユウタくんモ。フムム」
「たぶん、夢は自然と見るものなんじゃないかなあ」
「シカシ、わたしハコレマデおおクノゆめヲ、ん、ん、整理してきましたけれど」

 はてな、はてな
 ぴーん



 

 久しぶりにばねが飛んだ。
「そうです、思えば私が整理していた夢も、皆さんから受け取っていたのでした。私が作っていたわけではないのです」
「ふんふん」
「先ほども、ユウタ君が手伝ってくれたのは、自由なやり方でした」
「ぼくは、ちょっとおもしろいかなって」

 びしっ

 これはのろぼっとが指を立てようとした様子。でもまだ腕が半分しか上がっていないけれど。
「それが大事なところでした。私は上手にやろうとしすぎていましたよ」
「そうなんだね」
 のろぼっとの指が、ゆっくりとまっすぐになった。
「もっと皆さんにお任せして、私は楽しむほうに回りたいと思います。ありがとう、ユウタ君。楽になりましたよ」

 しゅううー

 身体全体から蒸気が噴き出して、ぼくとのろぼっとを包んだ。蒸気が晴れてくると、のろぼっとの姿がずいぶん小さくなっていた。



 

 きゅいん、きゅいん
 スッスッ
 カチャカチャ、カチャカチャ

 のろぼっとはすばやく立ち上がって、隅の箱の前でお腹を開いたり、手足の関節を自分でいじくったりしている。
「サテ、かんたんニめんてなんすヲシマシタ。コレデユウタくんニめいわくヲカケルコトモナイデショウ。ゆめデオあイスルカモシレマセン」

 しゃきん

 のろぼっとは小さくなった親指を立てた。

 ぐっ

 ぼくも親指を立てて、お家へ帰った。
 夕ご飯を食べて、さて、今夜もぐっすり眠ろう。のろぼっとから何か送られてくるかもしれないし、ぼくの夢がのろぼっとに楽しんでもらえるかもしれない。

 すやすや、くーくー

 それからは、ときどき

 パタパタ、コンコン
 すすすすす、すす
 ぴぴぴ、ぴぴぴ

 こんな音が聞こえてくるだけになった。ぼくはまたおもしろい夢を見たら、上の階に行ってみることにしている。

 


(完)