札幌 家庭教師わたなべ~小どもたちへの手紙~

札幌 家庭教師わたなべ~小どもたちへの手紙~

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刻のエンピツと木の精ポチカ11

 

 光る文字やポチカのことで、まだ考えがまとまっていないようだけれど、お父さんは笑って日記帳とエンピツを回してくれた。エンピツはさっきより温かい。真琴がエンピツを構えて書き始めると、ポチカも楽しそうに日記帳をのぞき込んだ。

『今日はみんなでキャンプに来ました。レストランで食べたお肉が美味しかったです。上手に焼けていました。釣ったイワナはこげてしまいましたが、どうせ食べられなかったのでいいです。ポチカと一緒にフリスビーをやりましたが、とても』

 思ったより書く欄が小さくて、このページにはこれ以上入らない。書いていくうちに昔の感覚が思い出されてきたようだけれど、以前はもっと余白を埋めるのが大変だった気がする。

 真琴の書いた文章もきらきらと輝いている。でも、お母さんとお父さんの文字のほうがずっと強く光っていた。

「何書いたの?」

「まだご飯とイワナのこと」

 日記帳を見せてあげると、お母さんもエンピツのことに慣れてきたのか、落ち着いた表情で真琴の書いた文章を読んだ。軽くうなずいて、そのままほほえんで真琴のことを見る。

 続きを書こうとページをめくったけれど『楽しかったです。』と、文章を終わらせたところで何も出てこなくなった。いろいろあったはずなのに、どうしてなのだろう。

「お母さんも書いて。いまあんまり思いつかない」

「そうなの? いいけど――」

 エンピツと日記帳を渡してから、お母さんはしばらく考え込んでいた。ぼんやりとエンピツの光を見つめたり、少し上下に振ってみたりしたあと、お父さんのほうにも顔を向けた。お父さんは眉をぱっと上げて、お母さんの視線を受けた。

 「よし」といいながらお母さんが日記帳のしわを伸ばして用意すると、エンピツの光が強くなったみたいだった。キャンプファイヤーの明かりがページに当たるようにして、お母さんは書き始めた。 

『まこちゃんも楽しみにしていた今回のキャンプでは、たくさんの経験ができたようです。必要な準備も自分でできたし、お友達もできて、一緒に釣りも楽しみました。車で気もちが悪くなったポチカちゃんも介抱してあげられました。

 フリスビー遊びでも、まこちゃんはとっても遠くまで投げていて驚きました。なくなったかと思ったけれど、きちんと拾ってくることもできました。ご飯も残さず食べられて、大人のひととも話すことができて、すごく成長したなと思います』

 お母さんはページをめくって書き続けた。

『でも、まこちゃんには心配をさせてしまいました。お父さんとお母さんがするケンカが、まこちゃんにとって楽しいものではないのは当然分かっていましたが、今日ほどそれを思い知らされたことはありません。まこちゃんはいろんなことを感じながら、私達と一緒に生活している、本当に当たり前のことだから、そのことを忘れてはいけないのです。

 まこちゃんに甘えてしまう部分もあると思うし、せわしなさに負けてしまうこともあるかもしれません。でも、お父さんもお母さんも、どんなふるまいをしていても、まこちゃんをすごく大事に思っているから、もしできたら少し見逃してね。無理ならいつでも、どんなことでもいってください。お父さんも同じように思っています、ね』

 途中から書くスピードが上がって、お母さんは真剣だけれど温かな表情をしていた。日記帳に引かれている線を無視してページいっぱいに書かれた文章は、山田のときと同じようにお母さんの顔を明々と照らしている。

 最後の文字を書き終えて、お母さんはまた真琴の顔を見ると、日記帳をお父さんに渡した。お父さんは火かき棒でカゴのなかをゴツゴツと押して、形を整えていたけれど、手を止めて日記帳を受け取った。下のほうの薪が崩れて、火の粉が舞った。

「なに?」

 お父さんは火かき棒を足下に置いて、日記帳を両手で持ってお母さんの文章を読んだ。読み進むにつれて、表情が硬くなったり沈んだようにもなったけれど、最後には強くうなずいた。お母さんに向かって、

「おれも書くよ。貸して」

 エンピツをお母さんが渡すと、お父さんもふうと長く息を吐いて書き始めた。

『真琴、慣れていないけど、お父さんも書くぞ。真琴、お母さんもいうとおり、お父さんも何をしていてもおまえのことを大事に思っています。いつも真琴の成長ぶりには驚かされるし、勉強にもなっています。

 お父さんとお母さんは、どうしても意見が食い違ったりすることもあると思います。お互いにこれまでの経験もあれば、考えていることもあれば、調子がいいときや悪いときもあります。それでも、真琴のことや、お互いのことを大切に思っていることは少しも変わりません。

 お父さんもお母さんも、同じ人間として、真琴と一緒に過ごしていきたいと思っています』

 書き足そうか考えるように、お父さんはエンピツを立てたままにしていたけれど、やっぱりやめて、そのままお母さんに日記帳とエンピツを返した。お父さんの文章もお母さんと同じように輝いていて、日記帳そのものが光ってみえるほどだった。

 お互いの書いた内容を読んだあと、お母さんもお父さんも何もいわなかった。遠くに目をやると、更けて白い夜空の下で、黒い山の木々が一本一本くっきりと際立っている。星がいっぱいで山の端からこぼれてきそうだ。
 

 お母さんから日記帳を受け取って、真琴も二人の書いた文章を読ませてもらった。表現が難しい部分もあったけれど、読み終えて、心地よいものが胸のなかに染み込んでくるような感じがした。ポチカが手を握ってくれたときの感覚にも似ているみたいだ。

「僕もがんばるよ」

 ありがとう、といおうと思ったはずなのに、別の言葉が口から出てきた。でも、これから真琴自身やお父さん、お母さん、それにポチカも含めてすごく素敵なことに出会えそうで、身体がうずうずしてワクワクしてきた。

「まこちゃんは、――まこちゃんの思うようにしていいんだよ。応援してるから」

「うん」

 日記帳を閉じかけて、真琴はお母さんが持ったままのエンピツを見た。お母さんが気付いて、エンピツを渡してくれる。真琴はすぐに、

『僕もお父さん、お母さん、大好きです。またキャンプ来たいです。ポチカともたくさん遊びます』

 と書き足してページを閉じた。閉じても紙の間から光が漏れている。お母さんもお父さんも、真琴が何を書いたか分かっているのか、優しい目で真琴のことを見守っていて、しばらくしてから、

「明日、出発までどうする? 遊歩道行ってみる?」

「どうかなぁ、あさって仕事だから早めに帰りたいといえば帰りたいし……」

 お父さんが首をひねると、お母さんは「それは分かるけど」と笑った。

「ポチカ、行ってみたいです」

 ずっと静かにしていたポチカが、身体を伸ばして元気に答えた。とても嬉しそうだ。お父さんはポチカのことを見て、ちょっと神妙な顔でうなずくと、

「よし、分かった。一応調べてあるんだ、来る前に。山の上のほうまで行けて気もちいいらしい」

「登山道じゃなくて? そんなガッツリ歩きたくないなあ」

「いや違うよ、ぐるっと回ってくるみたいな感じだった」

 お母さんが嫌そうにいうのを笑って、お父さんはポケットからキャンプ場の地図を取り出そうとしたけれど、見つからなくてやめた。角が崩れそうになっていた薪を火かき棒で崩してから、ほうと大きくため息をついた。

「じゃ、もう寝るか。――これ消して……」

 キャンプファイヤーの火はだいぶ小さくなって、辺りを照らす範囲も狭くなってきた。下のほうは燃え尽きた薪がカゴからはみ出して、傾斜ができている。待っていても自然と消えるまでには時間がかかりそうなので、お父さんが水場からバケツに水を入れて運んできた。

 一気に消してしまう前に、真琴とポチカは手ですくった水を火に振りかけてみた。じゅうっという音がして、薪の一部に黒いしみができただけで、火は燃え続ける。

「よし、じゃばっといこう」

 ポチカとバケツの両端を持って、勢いをつけて水を全部ぶちまけた。もう一度じゅううという音がして蒸気が上がったあと、足下から真っ暗になった。濃いオレンジ色の燃え残りがあったけれど、すぐに冷めて、粉っぽく湿った匂いが漂う。急に静かになったみたいだった。

 目が慣れてくると、空の星の数が増えて、火を消す前よりももっと明るくなった。お母さんはケーキのパックを入れたビニール袋を持って、お父さんは「明日の朝、ちょっとまとめておこう」といって黒く収まった薪の山を足でならして、テントへ戻る準備をした。

「まこちゃんもポチカちゃんも、ちゃんと歯磨きしてねー」

 真琴とポチカは一緒にうなずいて、手をつないでテントのほうへ歩き出した。星と空の明るさで、靴底に当たる草の形もはっきり見える。遠くの森の木々と同じように、一本一本が鮮やかに浮かび上がって存在感を持っている。

 見渡すと、ロッジの玄関の明かりも絞られて小さくなっているし、他のお客さんのテントの光もない。父親さん達ももう眠ったのだろうか。けれど、露の降り始めた草木と水分をもった空気がしっとりと輝いて自分達を包んでいるようで、真琴はお腹の底から元気が湧いてくる気がした。胸いっぱいに深呼吸をすると、涼しい緑と水の香りがする。

 キャンプファイヤーとテントのちょうど中間くらいのところで、細長いものが落ちているのを見つけた。拾い上げると、イワナを刺していた串で、

「こんなとこまで来てる。どこまで持ってこうとしたのかな」

 真琴がいうと、ポチカがまた頭にかぶっていたヘッドライトを点けた。イワナの身の残りも全然付いていなくて、しゃぶったみたいに串はきれいだった。

「もっと食べたかったのかもしれないね」

「うん」

 ポチカが照らしてくれるライトでもう一度串を眺めて、真琴はこのキャンプ場に住んでいる生きもののことを思い浮かべた。姿は見えないけれど、きっとここへ来るお客さんや、もちろんいまは真琴達のことも見守っているのかもしれない。渓流の魚も岩の陰で休んでいるだろうか。

 お父さんとお母さんも追いついてきて、真琴が串を見せると「お、それあったのか」と興味深そうだ。一応テントまで持って帰って、あとでどうするか決めることにした。

 ポチカは優の真似をしているのか、ライトを点けたり消したりする。そのたび、夜のキャンプ場の世界が別の色を見せるような気がする。真琴はポチカにライトを消しておくように頼んで、ゆっくりと一緒にテントまで歩いた。