桂ざこば師匠が、お亡くなりになりました。
大好きな師匠でしたので、いつもお会いするのが楽しみでしたが、最も思い出に残っているのは、2016年9月4日…
大阪は千日前にあったトリイホールに於いての、芸歴15周年記念のひとり会にゲスト出演して頂いた時の事。
私の拙い三席の間にはさまり、師匠は『厩火事』を口演してくださいました。
…そう、あの天才・桂枝雀師匠がソデで聴いてボロボロ涙をこぼし、下りてきたざこば師匠を抱きしめて「ええ噺家になったなァ?」と仰ったと云う伝説の『厩火事』を!
終演後、法善寺横丁にある一心と云うお寿司屋さんにて御馳走になった際、色々と芸談を拝聴したんですが…
「どの噺にも〈情〉がある」
「噺は、自分では気付かない部分を気付かせてくれる。だから沢山覚えた方がええ」
…と云うお言葉が、特に印象に残っております。
その後も「帰さへんでェ?」と、カラオケスナックへ連れていってくださり…
千昌夫さんの『おやじ先生』を聴きながら滂沱の涙を流したかと思えば、お気を遣って私に「何か歌いや」と仰ってくださったので、恐る恐る『青春時代』を入れると、前奏を聴くや否や、すっくと立ち上がって…
「コレ、ええなァ!」
…と、私が歌い終わるまで、ずっと踊ってくださいました。
師匠はあの時、絶対に『青春時代』を知らない反応を一瞬だけなさったんですが、恐る恐る曲を入れた私に恥をかかさないように踊ってくださったのです。
大先輩の粋なお気遣いを目の当たりにして、大好きだった師匠が更に大好きになりました。
前述の一心さんで、煙草をくゆらせ、ぬる燗を呑みながら「落語はええなァ…」と仰っていた時の笑顔が忘れられません。
ざこば師匠、有難うございました。安らかにお眠りください。