有竹修二の『講談・伝統の話芸』(朝日新聞社)を読みました。
本書を知ったのは、十年以上も前。
小朝師匠のブログで知りましたが、まつわるお話が面白い…
或る日、若様が上野広小路の古本屋に居たら、其処へやって来たのが談志師匠。
帰り際に、談志師匠が若様に向かって…
「有竹修二が書いた『講談・伝統の話芸』って本がある。俺のバイブルだ」
…と仰って、飄然と去られたそうな。
若様は「談志師匠がバイブルと仰るんだから…」と、それがたまたま1冊あったので、購入して若様はご帰宅。
それからおよそ1年後、談志師匠から突然電話があり…
「うっかりしたんだが、前にお前に話した有竹さんの本のタイトルは何だったかな?」
…と。談志師匠は、よくこんな事をよくやったそうです(笑)。
ま、そんな記事で知ってはいたものの、絶版だった為に中々手に入らず、ようやく入手して読ませて頂きました☆
登場人物の名前が聞いた事のない方々ばかりで、最初は難儀するんですが、有竹の筆により語られた名人達の至芸が読み手の想像力と相俟って膨らんでくるので、どんどん引き込まれてしまいます。
小島政二郎の本でも存分に書かれていた錦城斎典山については…
「世話と時代をほとんど両手使いに使いわけるという意味で、講釈の本道をゆく人といわざるをえない。
つまり、九代目團十郎と五代目菊五郎の二人分を併せもつ人である」
「『八百蔵吉五郎』はこの白浪伝中の圧巻であり、しかも典山の世話講談の最高峰だ。
(中略)
典山は六代目(菊五郎)を褒め、六代目は典山の芸に心酔した。
ことに、典山十八番天明白浪の一節『八百蔵吉五郎』にはすっかり感心し、一幕物にして上演した」
…なんてんで、かの名人・六代目菊五郎に「心酔」されてたってんですから凄いっす。
『天保六花撰』で直侍が妾となった三千歳に間男している様子が滅法上手かったそうですが、実体験に基付いてるそうで…
「すなわち、典山先生、大変な色男で、直侍を地で行って、妾宅へ通っているうちに、主人公につかまった御経験があるとのことだ」
…ですと☆
また、モテたのは三代目神田伯山もだったらしく、まだ此の人が小伯山の頃、しょっちゅう吉原へ通っていたそうだが、楼主が小伯山の師匠の二代目伯山に…
「どうかお宅の小伯山さんを、うちへよこさないで下さい。花魁がべた惚れして商売にならない」
…って、カッコよ過ぎないすか!?
浅草にあった〈稲ぎく〉と云う天ぷら屋へ三代目はよく通っていたそうですが、その天ぷら屋の主人の言によると…
「まるで清水の親分が子分をつれて来ているようですね」
…ってんですから、益々カッコいい♪
家元が心酔した五代目神田伯龍(←その影響で『小猿七之助』を演るようになったのは、有名なお話。残っている音源は、必聴!)については…
「小島政二郎さんにいわしめると、伯龍こそ師伯山を凌ぐもの、というであろう。
まさに伯龍の芸は、大正時代にすでに完成されていた。
世話講談の名手、文慶の持っているものをそっくり全部いただいた彼は、実に生世話ものでは、先輩、芦州、典山に拮抗するものがあった」
…とか。
此の本が出版されたのが、昭和48年。
当時、講釈師の人数が少なく、講釈と云う芸能の先行きを憂う有竹は、本書の冒頭で…
「問題は、この道の人が、この特殊な芸能を天職と思い魂を打ちこむことである」
…と書いてましたが、今、六代目神田伯山先生と云うスターがなさっている事が、正にそれでしょう。
そんな伯山先生が松之丞時代に書いた『講談入門』と併せて本書を読んだら、必ずや講談を聴きたくなりますヨ☆是非!