『不気味といえば誇張がある。ふしぎのほうがまだピッタリする。ぼくは
あなた達にもききたい。あなた達もやはり、ぼくと同じように一皮むけば、
他人の死、他人の苦しみに無感動なのだろうか。多少の悪ならば社会
から罰せられない以上はそれほどの後めたさ、恥ずかしさもなく今日
まで通してきたのだろうか。そしてある日、そんな自分がふしぎだと感じ
たことがあるだろうか。』
遠藤周作 『海と毒薬』
太平洋戦争中の米人捕虜に対する生体実験についての作品であります。
該当する事案に関連することになった数名の人物について、生い立ちや
事案に対する考えをオムニバス形式で独白させるという、少し変わった
手法をとっており、その内容の重さとあいまって、記憶に残る1冊となりま
した。
読者に対して、罪の意識というか、己の不思議さに対する同調を求めて
いるような語り口ですが、読者として、想像のうえであっても、このような
内容が理解できるはずもありません。
問題の重大さとその裏返しとして、倫理観と罪の意識とは必ずしも体の
表裏のようにピッタリ寄り添ったものではないと感じました。
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海と毒薬 (角川文庫)
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