『私もその子と一緒になって危く涙を流しそうになった。私の流す涙とは
こういう光景の背後にあるものに対するあわれみと怒りの涙であった
ろう。天も地もただひたすら人間を祝福しているような、このうららかな
春の日に、本来ならいかにも子供らしく喜々として楽しんでいるはずで
あるのに、ただ六ペンス銅貨をつい一枚とり落としたばかりに、胸が
張り裂けるほど泣く子供がいるということはなんということであろうか!』
G.R.ギッシング 作 平井正穂 訳 『ヘンリ・ライクロフトの私記』
ヘンリ・ライクロフトとは、作者であるG.R.ギッシングの仮の姿であろうことは
想像に難くありません。作中には、ほとんど貧困といっていいほどの人生を
過ごしてきたライクロフトのつらい日々が描かれています。
本当の貧しさを知るからこそ、そういう人々の目線から、何がつらいのか、
何が理不尽なのか、そのような状況の中で何が希望なのか、実にわかり
やすく述べています。
わかりやすいと感じるのは、こういう私自身がライクロフトとある種似た境遇
であることが理由かもしれませんが。
私にとって、真の良書です。
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ヘンリ・ライクロフトの私記 (岩波文庫)
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