「僕という奴は、女の子ひとりと結婚してやるために、この世に生まれて来た
らしいんです。お父さんに是非そう伝えておいて下さい。さぞかし御不満で
しょうがおあきらめ下さいってね。僕はいろいろ考えましたけど、この世で
ひとりの人でもしあわせにできれば、それで生れて来た甲斐があると思わ
なきゃいけないような気がするんです。はい、では又、のちほど」
曽野綾子 『二十一歳の父』
様々な夫婦の姿が多次元につづられていきます。早くに妻を亡くした男。いままさに
妻を病気で亡くそうとする男。そろって上流志向で、実際のところ身近な家族にさえ、
計算づくの夫婦。
夫婦が、新たにかたちづくられようとしているとき、脈打つような、前向きの明るい空気
を自然に感じるものです。そこには、未知の世界に対し、無分別といってもよいほどの
豪胆さで飛び込んでゆく爽やかな姿が想像できます。
一方、連れ添いを失う場面で、血のつながりがないからこそ、努力や忍耐の結果と
して『つくりあげてきた何か』を喪失することの、重大な意味を気づかされる場面も、
心にせまります。
第三の新人といわれたグループの一人である曽野綾子を取り上げます。
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