保江は佐藤明とこんなたわいもないことをしゃべりながら、孤独を感じていた。
鎌倉に弟を訪ね、そして姉といっしょに小田原に行き、そこで二日間、すること
もなく過ごしてきたが、いつも見えるのは自分が男から見はなされてしまった
女だということだった。
孤独から逃れるために、いま、あたしは饒舌になっている・・・・・・。
立原正秋 『春のいそぎ』
敗戦の翌日を起点とする2姉1弟の話しである。
のっけから、いわゆる不倫関係というものが次々と展開されていきますが、
間延びした空気を感じさせません。
畳みかけるような場面と男女の組合せが展開されていきます。
もともと私は、会話と心理描写中心のものを好まなかったのですが、さすがに
年齢を重ねるうちに、この手のものをじっくりと読み込めるようになりました。
最もしっかりした女性として描かれた長女の篤子が、最終的に、最も不安な
存在のままで、話が終わってしまいます。
その後の篤子を想う余地を、作者は残しているのでしょうか。
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春のいそぎ (講談社文庫 た 3-1)
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