最近観た製糸関連の企画展を2ヶ所ご紹介します。

両方とも、まだご覧になれますのでご興味ございましたらお出掛けください。

 

1ヶ所目は、東京農工大学科学博物館の『葵町製糸場図面資料』です。

公開は11月30日までです。入館料無料、日曜と月曜と祝日は休館。

 

 

 

 

 

 

博物館未整理資料より、富岡製糸場に次ぐ官営2番目の製糸工場、工部省勧工寮製糸場(葵町製糸場)の図面が再発見され公開しています。

 

葵町製糸場は現在の港区大蔵省印刷局付近にあったそうです。工部省勧工寮がスイス人ミュラーを雇い入れて明治6年2月に開業したイタリー式器械製糸場です。水車動力や繰糸器などの図面が展示されていました。

 

 

 

 

 

 

「錦絵・商標」展示室では、偶然にも群馬県の製糸工場の古い生糸商標が展示されていました。他で観たことのない上州の製糸工場のものが何枚もありました。わたしが住む安中市の碓氷社商標は3種類もありました。写真は左から板井精糸社、連取連製社、野上生糸製造所、金井精糸社です。

 

他、一緒に「教草」の中から「第三養蚕一覧」と「第四生糸一覧」の図も展示されていました。図の中には2条の上州座繰器で生糸を取っているところなどもありますから群馬の生糸商標と関連付けて展示していらっしょるのかな。なんとも素敵。こちらの展示は、どれくらいのペースで入れ替えしていらしゃるかわかりません。悪しからず。

 

 

 

 

 

 

東京農工大科学博物館は、1階にはニッサン自動繰糸機HR-2型や織機など繊維機械が展示されていて、2階には絹関連資料がたくさん展示されています。この日は大学生の団体見学があり、専門知識のあるガイドさんが自動繰糸機から織機・絹関連資料と全てのフロアを解説して回られていました。一部ご一緒させていただいたのですが、知識が深まりました。何度か伺っていますが解説いただくと新たな発見があります。ガイド依頼は大変オススメです。

 

 

 

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2ヶ所目は、埼玉県の入間市博物館です。

 

 

 

 

 

 

特別展『石川組製糸ものがたり』が12月 10日(日)まで開催されています。

 

大正から昭和の初めにかけて全国有数の製糸会社であった石川組製糸についての特別展です。

 

 

 

 

 

明治26年に小さな座繰り製糸工場を出発点として、大正時代末には県内外9つの工場に成長しました。

 

展示では、横浜開港当時の日本の生糸輸出の話から始まり、石川組製糸の創業から絶頂期と終末、9つの工場や女工さんの仕事と生活、キリスト教への受洗、鉄道、ゆかりの建築や文学について語られています。

 

 

 

 

 

 

 

展示で個人的に心ときめいたのは、この足踏み式繰糸機です(企画展図録より)。繰糸鍋の上にケンネルの撚り掛け装置がありますが、この装置は後から付けたものだと思われます。これを取り除いた形がこの繰糸機の本来の姿でしょう。

 

石川組製糸とこの繰糸機がどれだけ関係があるのかはわかりませんが、この繰糸機で生糸をつくっている昭和21年のモノクロ写真が一緒に展示してあり貴重な資料です。「できのよくなかった繭から、家族の日常着にするために糸を引いている。」と解説がついています。石川家で使っていたのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

足踏み式といえば、諏訪式繰糸機(①写真左、岡谷蚕糸博物館)のように繭糸は縦に引き上がり小枠に巻かれるものが一般的で、写真の諏訪式では作業者は繰糸鍋の正面に座り、小枠が背後に来る形態です。展示の足踏み式繰糸機は、手回しの上州座繰機と同様に繭糸が横に引かれる「横引き」です。昔の上州座繰器に手動で2条の生糸を取るのがありますが、その稼働を足踏み式にしたようなものです。作業者は鍋の正面に座り、小枠は左横に来る形態です。明治7年の「実地新験 生糸製方指南」に出てくる第九図(②写真右)にもよく似ています。生糸の撚り掛けが少し違うくらいです。

 

展示の足踏み式繰糸機には、2条用の糸寄器(弓)と別で2条用のケンネル装置が付いています。繰糸方法は展示の解説から考えて、先日ブログに書いた指による添緒の玉糸繰糸法と同じようです。昔の図でしか見た事がなかった製糸道具と似たものが実在して興奮しました。これと同様の繰糸機をわたしは他で観た事がありません。大変良いものを見せていただきました。ありがというございました。

 

他、この博物館の常設には別のケンネル式上州座繰器が展示されているので個人的には必見。世界のお茶文化を紹介するコーナーも面白いです。帰りにミュージアムショップで茶葉の佃煮を買いました、これもオススメです。