(引用元:【信濃毎日新聞 8.24】より)
コロナ下で朝鮮学校の排除拡大、国連の是正勧告に従わない日本政府 マスク支給でも格差、「非人道的」批判受けたさいたま市は撤回(在日朝鮮人差別問題・前編)
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022082400422
日本政府は、新型コロナウイルス感染対策で新設した教育・生活支援制度から在日朝鮮人の民族教育機関である朝鮮学校とその生徒らを除外することで、教育支援格差を拡大させている。政府は2010年に開始した高校無償化制度からも朝鮮高校の生徒を排除し、裁判所もこの措置を追認した。拉致問題を理由に挙げたことが国連の場で批判され、その後、国際社会で日本政府がこの主張をやめたことは知られていない。
国連の人権機関は朝鮮高校生の除外を「差別」と断定して是正を求めたが、これを拒む政府は、新たな支援策をつくるときに最初から朝鮮学校を対象外にする方策を始めた。国連人権理事会が任命した専門家らは、この手も差別だとして即刻やめよと求めている。朝鮮学校を公的支援から排除する日本政府の理屈は国際社会からすべて退けられている。(共同通信=粟倉義勝)
▽命の選別が行われたら引っかからない存在
コロナ禍での支援の格差づけは、さいたま市が最初に政策化を図った。2020年3月、子ども関連施設への不織布マスクの配布を埼玉朝鮮初中級学校幼稚部には行わないと決めたのだ。マスクが手に入らなくなっていた時期だ。
幼稚部の朴洋子(パク・ヤンジャ)園長によると、市の職員は電話で、朝鮮学校が「市の監督下にない」ために「マスクがどのように使われるか分からない」と言った。朴園長や保護者らが市役所を訪れ抗議すると、担当部長は使途を疑ったことを謝罪した。だが市が監督していないから配布はしないという姿勢はかたくななままだった。
「マスク1箱が欲しくて来たのではない。子どもの命に関わる問題を、なぜ同じように扱わないのか」
朴園長は詰め寄った。朝鮮学校と同じく指導監督権限が県にある私立幼稚園を市は配布対象としている。朝鮮学校だけをどうして外すのか―。
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無償化制度の開始時、対象になった幼児は約300万人。一方で、各種学校の外国人学校に通うため外された子は3千人前後だったとみられる。率にして0・1%の子たちを排除する仕組みをつくる必要が、どこにあったのか。
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▽国連は朝鮮学校への対応を「差別」と断定した
だが、国と自治体のこうした態度を国際社会は容認していない。国連の人種差別撤廃委員会など三つの人権機関は2019年2月までに、日本の人権状況の審査で計5回、高校無償化制度の対象に朝鮮高の生徒を含めることや朝鮮学校への自治体の補助金支給を再開、維持することを勧告するなどしている。このうち2013年4月に行われた社会権規約委員会の審査では、傍聴した在日朝鮮人人権協会によると次のようなやりとりがあった。
国連委員「なぜ朝鮮高校の生徒たちはその(無償化の)対象に入っていないのか」
日本政府代表「朝鮮総連と密接な関係にあり、適正な学校の運営に適合するとの確証が得られていない。これに加えて拉致問題の進展がなく、国民の理解が得られない」
国連委員「拉致は確かに恐ろしいが、そのことと朝鮮学校に通っている子どもたちとの間には何の関係もない。排除する理由にはならない」
翌5月、社会権規約委員会は朝鮮高生排除を「差別」だと断定した。日本政府はこの後国際社会で朝鮮高排除の理由に拉致を挙げなくなり、朝鮮学校が「指定の基準に適合すると認めるに至らなかった」ために除外したのだと、日本の裁判所が認めた主張を前面に出すようになる。
だが、19年2月、子どもの権利委員会は基準自体を見直せと要求し、さらに踏み込んだ。朝鮮高排除の理由はすべて国連の場で通らなくなった。
▽朝鮮学校排除の常とう手段が復活した
幼保無償化制度の創設は国際社会でこうした流れが固まった後のことだ。各種学校であることを理由に除外されると聞いた朝鮮学校関係者は「高校無償化からの排除に手間取ったので、より確実に朝鮮学校を外すためにこの口実を持ち出した」と受け止めた。かつて朝鮮学校を排除した“常とう手段”だったからだ。
スポーツの公式大会出場やJRの通学定期券適用、国立大・大学院の受験。これらは各種学校を理由に朝鮮学校の生徒に資格が認められなかったが、当事者と市民、日本弁護士連合会、研究者らの運動で徐々に門戸が開かれてきた経緯がある。この過程では2000年代初頭までに、国連の人種差別撤廃委員会など四つの機関も朝鮮高卒業生の大学入学資格を認めることなどを勧告している。日本政府と社会は、こうした声に押されて在日朝鮮人の教育を受ける権利の水準を、日本学校のそれに近づけてきた。各種学校を口実にした日本社会からの疎外をやめさせる闘いは在日朝鮮人の権利獲得運動の大きな柱だった。
この流れを覆し、各種学校であることを理由に格差をつける政治が復活したのが幼保無償化制度だった。さいたま市はこれをコロナ禍での支援策で模倣しようとし、非人道的だとの批判を受けた後、方針を変えた。だが、政府はそうではなかった。
(「後編」へ続く)