ヘイト立件、法が支え「関係修復へ議論を」

 ヘイトスピーチ対策法には罰則がないものの、2016年の施行後、差別解消を求める法の精神に沿って捜査当局が立件する事例が出ている。専門家は「対策法が支えになっている。石垣の事件もその流れにある」と指摘する。

 京都地検は18年、京都市の京都朝鮮第一初級学校跡地近くで拡声器を使って学校の評価をおとしめる発言をしたとして、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の元幹部を名誉毀損(きそん)罪で在宅起訴した。

 この元幹部は09年にも同校に集団で詰め掛け、威力業務妨害罪などで有罪判決を受けた。当時子どもを通わせていて、現場にも立ち会った龍谷大の金尚均キムサンギュン教授は「ヘイトは単に不快な言葉ではなく、相手をさげすむことによって同じ人間であることを否定し、将来の差別を正当化する」と語る。

 沖縄を標的にしたヘイトも広がっている。「国による上からの差別と民間による下からの差別に挟み撃ちにされているのは沖縄の人々も同じ。保護の対象を外国だけでないあらゆる出自、属性の人々に広げる法改正が喫緊の課題だ」と語った。

 一方で、ヘイトは終息しない。京都市の事件で被害者側代理人を務める冨増四季弁護士は「ペナルティーを科すのみでは、かえって被害マイノリティーへの反感や敵視を強め、社会を分断してしまいかねない」と懸念。「加害者の悪質さに目を奪われがちだが、被害者の痛みや背景にも光を当て、差別被害への共感と関係修復につなげていくアプローチについて社会的な議論を始める時だ」と話した。(北部報道部・阿部岳)