このことばに、何度救われてきただろう。
多くのものごとを示唆するこのことばは、どんなに時間がたっても、何回よみかえしてもしっとりと心の奥にしみこんでくる。
作者のサン=テグジュペリが、このことばにこめた思いはいったいどんなものだろうか。
このことばは、地球に訪れた王子さまとキツネとの対話の中で出てくる。
王子さまと出会ったキツネは、こんなことを言う。
「ぼくの暮しは単調だ。ぼくがニワトリを追いかけ、そのぼくを人間が追いかける。
ニワトリはどれもみんな同じようだし、人間もみんな同じようだ。
だからぼくは、ちょっとうんざりしてる。
でも、もしきみがぼくをなつかせてくれたら、ぼくの暮しは急に陽が差したようになる。
ぼくは、ほかの誰ともちがうきみの足音が、わかるようになる。
ほかの足音なら、ぼくは地面にもぐってかくれる。
でもきみの足音は、音楽みたいに、ぼくを巣の外へいざなうんだ。
それにほら!むこうに麦畑が見えるだろう?ぼくはパンを食べない。
だから小麦にはなんの用もない。麦畑を見ても、心に浮かぶものもない。
それはさびしいことだ!
でもきみは、金色の髪をしている。
そのきみがぼくをなつかせてくれたら、すてきだろうなあ!金色に輝く小麦を見ただけで、ぼくはきみを思い出すようになる。
麦畑をわたっていく風の音まで、好きになる……」(p101-102)
こうして、キツネと時間をかけて絆を結んだ王子さま。けれども、王子さまは名残惜しくもキツネのもとを離れなければならなかった。
「ああ!」キツネが言った。「……ぼく、泣きそうだ」
「きみのせいでしょ」王子さまは言った。「ぼくはきみに、いやな思いなんか少しもさせたくなかった。でもきみが、なつかせてって言ったから……」
「そりゃそうだよ」キツネが言った。
「でも、泣くんでしょ!」
「そりゃそうだよ」
「じゃあ、いいことなんてなかったじゃない!」
「あったよ」とキツネ。「麦畑の色だ」(p106)
……。この場面を僕はいままで何度も読み返している。この内容の真の意味を理解してから、僕自身の暮しも急に陽が差したように、明るくなったように思う。
この考え方を学んでから、きれいな月を見るたびに楽しい気持ちになるし、アイスクリームを食べるとき愉快な気持ちになるし、嫌いだったトマトだって食べられるようになった。
こうやって、自分にとっての、“麦畑の色”を積み重ねていけば、世の中ほとんどが楽しいことばかりになるんじゃないか。
道端の石をみて、「ああ、そういやあいつは、こんな石を蹴って○○さんの車に傷を付けて怒られていたなあ」みたいな。
そうやって、ヒトとヒトとは絆を結び、そして別れ、生きていくのだろうな、と。
ほかにも紹介したいたくさんの素敵なことばが『星の王子さま』にはちりばめられています。
すこしでも、気になった方は読んでみることをお勧めします!
最後にキツネは、王子さまに秘密を教える。
「じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない。」(p108)
僕は、つらいことや悲しいことがあったり、自分にとって何がたいせつなのか分からなくなってしまいそうな時、この本を読み返す。
・引用文献
『星の王子さま』, 新潮文庫, サン=テグジュペリ著, 河野万里子訳 (2006)
星の王子さま (新潮文庫)/新潮社

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