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終電にね、乗ったのです。
そしたらね、なんか一部分にすごく広い空間があるわけ。

なんでかな~って眺めてみたら、長椅子の端っこに座ってるわけ。外国人男性が。もうね、VIP扱い。
隣空いてるし。終電なのに。すっごく混んでるのに。

いやいや、別に外国人ってだけでそんな待遇ありえないっしょ。差別ダメ、絶対。


そこで僕に変な正義感がふつふつと沸くわけですよ。ゴゴゴゴゴッって。

「もうすぐ東京オリンピックですよー。国際化、進めておかないとだめですよー。時代はグローバルですよー。」

なんつって。ソチ五輪もろくに見てないのに。

いや別に全然英語とか得意じゃないし、日本人とすらうまく話せないんだけど。

でもがんばって隣に座ったのですよ。
hey boy, きみは一人じゃないですよ~みたいな顔して。

もうね、痛々しいよね、ホントあの時の自分の顔原型なくなるくらいぶん殴りたい。

そしたら、隣の外国人(以降ジョン)ったら、すごい笑顔でこっち見てきて、凄い勢いで話しかけてくるわけ。
“Hey! my brother!!”
とかおっしゃって。
あせったよね。いや、もうほんと勘弁してください。声でかいっす。あと、唾、顔にかかってるんで。

そんなこちらの気も知らないで、ジョン、一人で大騒ぎ。
日本語も結構上手かったから、僕も周りもジョンの一日、手に取るようにわかったよね。

ああ、そうなんだ。ロッポンギのクラブで飲んでたんだ。楽しかったね。うん。ニッポンサイコウ?そうかそうか、ほめてくれて嬉しいよ。
へ~。一年も日本にいるんだ。うんうん。その短期間でその言語レベルはすごいよ。次は文学に挑戦したら?太宰の『人間失格』なんてどう?
「恥の多い生涯を送ってきました。」
つって。あと、ベネディクトの『菊と刀』なんてどう?
日本文化の根底にある“恥の文化”が学べるよ?いまのきみに一番必要な知識なんじゃないかな。

でね、電車スタートしても大声で話すのやめてくれないかな。マナー、守ろうよ。
というか、きみ、いつ僕と兄弟の契りを結んだっけ?


ほんと、すごかった。ジョンったら、全く他の乗客のことお構いなし。次の駅が高田馬場だったから、電車の中にものすごい数の乗客入ってきたんだけれど、構わず大声で話してた。

で、ジョンって、たしかに日本語上手なんだけれど、隠語とかそういう表現はさすがに知らなかったらしいのね。突然、彼がロッポンギでやってきたこと身振り手振り使って拙い日本語で説明してきたわけ。

もうね、ほんと放送禁止用語。モザイクすらはみ出るレベル。ド直球。ド下ネタ。
もしテレビだったら、会話にならないよね。すぐに画面切り替わって奇麗な花とか、渓谷の映像流すよね。

「不適切な映像が流れてしまいました。」

つって。

しかも、途中から乗ってきた乗客、僕がどういう経緯でジョンの隣に座ったか知らないもんだから、完全に僕らを“マブダチ”だと思ってたよね。

腐った生ゴミを見るような眼でこっちみてたもん。OLさん。

しまいには、僕の隣のおじさんも席立ったし。もうとっても孤立。なに?このすごい混んでるのに僕らの周りだけ誰もいない感じ。

ジョンはジョンで、全くお構いなしに

下ネタのラージヒルジャンプ、ばっちりK点越えてるし、

これからお話のステップシークエンス入りますよ~。
お客さんよく見てくださいよ~。審査員さーん、キッチリ構成点入れてくださいよ~。

みたいなキラキラした目で周り見てるし。
うん。確かにきみ凄くきれいに滑ってた。日本ではこの状況“滑った”って表現するから。テスト出るよ。たぶん。

あと違うから。この人たちただのスタンディングオブザーバーだから。スタンディングオベーションしないから。スタンディング違いだから。全然感動してないから。拍手しないから。

だからね。わたくし、もう最寄駅の8つ前くらいで降りたよね。

降りるときに、ジョンが
what’s your name?
なんて聞いてくるもんだから言ってやったよね。
I’m Sato!
て。
全国の佐藤さんごめんなさい。

8駅分歩いて帰ったよ。
終電だったのに。まだまだ寒いのに。ちくしょう。おわり。