ブログでは、これまで「国語」教科書の教材スリーズを連載してきました。それらをデータにして、希望する方に提供してきています。それをもとに4月は『ひらがな遊び』、『ふきのとう』、先月は『スイミー』のオンライン学習を行ないました。

 

さて、6月中に計画しているのは、『大きなかぶ』です。《リクエストなど聞きながら、オンライン学習を希望者の方と行なうつもりです。他の学習会日程と重なっているので、平日19時からで調整中です。》

 

過去の『大きなかぶ』シリーズ6回はここ。

「大きなかぶ」を読む① | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

「大きなかぶ」を読む② | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

「大きなかぶ」を読む③ | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

「大きなかぶ」を読む④ | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

「大きなかぶ」を読む④ | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

『大きなかぶ』を読む⑥ そのルーツは | さんにゴリラのらぶれたあ (ameblo.jp)

 

7回目の記事です

「大きなかぶ」2つの訳<内田莉莎子・訳と西郷竹彦・訳>

全ての「国語」教科書に採用されている「おおきなかぶ」には、2種の訳文があります。

内田訳は、福音館書店から絵本として出版されています。(絵は佐藤忠良さん。この絵は大好きです。)

西郷訳は、光村の教科書だけに採用されています(絵はローシン)。

 

その2つの訳文を紹介します。

比較して読んでみることで、どちらを教材文にして学んだとしても、参考になります。

 

①の部分《内田訳》

(内田莉莎子さん訳)は黒色で

大きなかぶ(内田莉莎子・訳)        

おじいさんが かぶを うえました。   
「あまい あまい かぶになれ。        

おおきな おおきな かぶになれ」       

 

あまい げんきのよい とてつもなく おおきい

かぶが できました。 
 

おじいさんは かぶを ぬこうと しました。  

「うんとこしょ どっこいしょ」        

ところが かぶは ぬけません。        

 

同じく①の部分《西郷訳》

大きなかぶ(西郷竹彦・訳)
おじいさんが、かぶの たねを まきました。

「あまい あまい かぶになれ。
おおきな おおきな かぶに なれ。」

 

あまい あまい、おおきな おおきな
かぶに なりました。

 

おじいさんは、かぶを ぬこうと しました。

「うんとこしょ、どっこいしょ。」
けれども、かぶは ぬけません。

 

 

②の部分《内田》 

おじいさんは おばあさんを よんできました。 

おばあさんが おじいさんを ひっぱって、   

おじいさんが かぶを ひっぱって    

「うんとこしょ どっこいしょ」        

それでも かぶは ぬけません。        

 

②の部分《西郷》  

おじいさんは、 おばあさんを よんできました。

かぶを おじいさんが ひっぱって、
おじいさんを おばあさんが ひっぱって、
「うんとこしょ、どっこいしょ。」
それでも、かぶは ぬけません。

 

③の部分 《内田》

おばあさんは まごを よんできました。    

まごが おばあさんを ひっぱって、      
おばあさんが おじいさんを ひっぱって、   

おじいさんが かぶを ひっぱって    

「うんとこしょ どっこしょ」         

まだ まだ かぶは ぬけません。       

 

③の部分《西郷》 

おばあさんは、まごを よんで きました。
かぶを おじいさんが ひっぱって、

おじいさんを おばあさんが ひっぱって、
おばあさんを まごが ひっぱって、
「うんとこしょ、どっこいしょ。」
やっぱり かぶは ぬけません。

 

④の部分《内田》

まごは いぬを よんできました。       

いぬが まごを ひっぱって          

まごが おばあさんを ひっぱって       

おばあさんが おじいさんを ひっぱって    

おじいさんが かぶを ひっぱって    

「うんとこしょ どっこしょ」         

まだ まだ まだ まだ ぬけません。     

 

④の部分《西郷》

まごは、 いぬを よんできました。

かぶを おじいさんが ひっぱって、

おじいさんを おばあさんが ひっぱって、

おばあさんを まごが ひっぱって、
まごを いぬが ひっぱって、

「うんとこしょ どっこいしょ。」
まだまだかぶは ぬけません。

 

⑤の部分《内田》

いぬは ねこを よんできました。              

ねこを いぬが ひっぱって          

いぬを まごが ひっぱって          

まごを おばあさんが ひっぱって       

おばあさんが おじいさんを ひっぱって    

おじいさんが かぶを ひっぱって       

「うんとこしょ どっこいしょ」        

それでも かぶは ぬけません。

        

⑤の部分《西郷》

いぬは、 ねこを よんできました。

かぶを おじいさんが ひっぱって

おじいさんを おばあさんが ひっぱって、

おばあさんを まごが ひっぱって、

まごを いぬが ひっぱって、

いぬを ねこが ひっぱって、

「うんとこしょ どっこいしょ。」
なかなか、かぶは ぬけません。

 

⑥の部分《内田》

ねこは ねずみを よんできました。      

ねずみが ねこを ひっぱって         

ねこが いぬを ひっぱって          

いぬが まごを ひっっぱって        

まごが おばあさんを ひっぱって       

おばあさんが おじいさんを ひっぱって    

おじいさんが かぶを ひっぱって       

「うんとこしょ どっこいしょ」        
やっと、かぶは ぬけました。         

 

⑥の部分《西郷》

ねこは、 ねずみを よんできました。

かぶを おじいさんが ひっぱって、

おじいさんを おばあさんが ひっぱって、

おばあさんを まごが ひっぱって、

まごを いぬが ひっぱって、

いぬを ねこが ひっぱって、

ねこを ねずみが ひっぱって、

「うんとこしょ、どっこいしょ。」

とうとう、かぶは ぬけました。

 

        ********************

 

原作は同じ、その再話の訳文ですから、登場人物、設定も同じです。

違いは大きくは3点。

鉛筆(1)①の部分 「かぶを うえました」《内田》と「かぶの たねを まきました」

  

あまい げんきのよい とてつもなく おおきい

かぶが できました。 《内田》

 

 あまい あまい、おおきな おおきな
かぶに なりました。《西郷》

 

鉛筆(2)登場人物がかぶを引っ張るときに、出てくる語順がちがうこと

《内田》は、呼ばれてきた小さな人物から大きなかぶに向かっていく

   *主語《おばあさん》⇒補語《おじいさん

《西郷》は、大きなものから、次第に小さなものに。

   *補語《おじいさん⇒主語《おばあさん

この違いが、リズムやテーマ性の読み方に違いを生みます。

 

鉛筆(3)接続詞の違い

《内田》 ところが→それでも→まだまだ→まだ まだ まだ まだ→それでも→やっと

《西郷》 けれども→それでも→やっぱり→まだまだ→やっぱり→とうとう

      

これらをいかに授業で活かすかです。

 

 ******************

 

この2つの訳文の違いについて、翻訳者が次のように語っています。授業の参考になりますね。

 

うちだりさこ(翻訳者)さん
「おおきなかぶ」の授業で、一人では不可能なことも皆が一致協力すれば可能になるという結論に導こうとすることがまま見られると聞きました。それはあまりにも安易でつまらない授業のまとめ方ではないでしょうか。それよりこの単純明解、骨太の話のテンポ、リズム、クライマックス(というのも大げさですが)への盛り上がりなど。そうしたものすべてを共有する満足感を子ども達が得たならば、授業は大成功と思うのですが、いかがでしょう。      『日本児童文学』 1991年9月号より引用

先日ある過疎地の小学校の一年生から「おじいさんへ」という手紙をもらった。その手紙には「おじいさんが水をやり、草をぬき、だいじに育てたから大きなあまいかぶになったのですね。きっといいにおいがしていたからたべる前からあまいとわかったのですね。というような内容だった。農村の子どもらしい感想に感動した。教材を生かすも殺すも結局は先生次第という気がする。 『日本児童文学』 1985年4月号より引用


西郷竹彦(翻訳者)さん  

自分たちの力だけで出来ないことは仲間の力を借りる。また、仲間になっていっしょに大きなかぶを抜く。この反復が、仲間が連帯するという主題を強調しています。しかも、この反復は、大きな強いものから、小さな弱いものへという変化・発展する反復になっていて、小さな弱いもの(ねずみ)の大きな役割、意味という思想を浮き彫りにしています。
ところで、語り手は、これらの人物の心情は一言も語りません。たとえば、ねこがねずみを呼びに行くとき、ねこは何を考えたか、また、ねずみはどう思ったか、ということは問題にしません。小さなねずみでも仲間を呼びに行く、そして、たとえ、どのように思っても、仲間に呼ばれたら,加勢するという行動そのものに大事な意味があるのです。
      「小学校 国語教育相談室」№19 光村図書出版より

 

リズム感のある音読、テーマ性を浮かび上がらせる展開、あなたの授業を子どもたちと楽しみましょう。

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