三木句会ゆかりの仲間たちの会:エッセイシリーズ 「能」あれこれ その1 大塚楓子 | sanmokukukai2020のブログ

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     三木句会ゆかりの仲間たちの会:エッセイシリーズ 「能」あれこれ その1 

                    大塚楓子

 

     「神男女狂鬼」

 

      私がお稽古をしている能楽の宝生流には180曲が「名寄せ」に乗せられています。

     ジャンルらしいものがあって、初番目、二番目、三番目、四番目、四五番目、尾能

     (きりのう)と分類されていますが、大雑把に言えば、標題の神男女狂鬼に対応し

     ています。かつて結婚式でよく謡われていた『高砂』は初番目で、シテが神か神に

     準ずるものです。お謡を始めると通常最初にお習いする曲は『鶴亀』です。シテが

     君主、鶴と亀の臣下が君主の栄華を祝う曲ですが、これも一番目ものです。

      二番目<男>には、源氏や平氏の若者がシテ(主役)の曲が多いです。『経正』、

     『敦盛』、『八島』など。三番目<女>には、『熊野』、『松風』、そして源氏

     物語のヒロインがシテの『半蔀』、『野宮』、また有名な『羽衣』もここに入り

     ます。名曲が多いです。四番目の<狂>は、子を失ったり行方不明の子を訪ねる母

     の姿が多くうたわれます。『通小町』、『三井寺』など。

      五番目<鬼>は四、五番目とも言われることが多く、色々な要素を含んだものが

     ここに分類されています。『葵上』、安達原の鬼婆の『黒塚』、嫉妬のあまり頭に

     鉄輪が生えている女性がシテの『鉄輪』などです。

      かつては上演の際は翁に始まって、狂言を挟みながら5番の能がその順に演じら

     れたそうですが、最近は2番か3番が多いようです。この場合も順番は守られます。

     最近私が見たのは、『半蔀』(三番目もの)と『阿漕』(四五番目もの)でした。

     研修会では4曲謡うことがありますが、それぞれの分野から曲を選んでその順番で

     お稽古します。季節もありますので、演能には相応しい曲が選ばれます。

      実はお稽古を始めた頃はもちろん、経験を積んでもジャンルのことなど知らずに

     謡っていました。ジャンルどころか、謡っている文章の意味も分からぬまま、それ

     を気にもせず、まさにお経を読むような感じでした。謡曲は節(ふし)があるとこ

     ろとない詞(ことば)からできています。詞(ことば)はいわゆる候文です。この

     部分も謡うと言いますが、これが意外に難しいのです。節には強く謡うところと弱

     く謡うところ、上調に謡うところと下調に謡うところがあって、謡い本にそれぞれ

     記されています。稽古の最初は先生が一句謡ってくださり、それを真似て謡うとい

     う、一句写しの形でしたが、この頃は弟子の新旧にかかわらず一段を先生が謡って

     くださり、それを真似します。お経のようと言っても、悲しい曲、楽しい曲、勇ま

     しい曲など自ずと違いがあり、謡っていると意味は分からず謡っていても、曲趣は

     感じられます。お能を見に行っても、習った曲でなければ、言葉を聞き分けること

     は難しいので、謡い本を見ながらお能を見ている方もいます。

      先日は国立能楽堂に行きましたが、ここには各席にスクリーンがあって、日本語、

     英語字幕を見ることができます。今回は源氏の「空蝉」という珍しい曲でしたから、

     私は日本語を選んで、ときどきそれを見ながら鑑賞しました。能楽堂は満席でした

                  が、観客のマナーは最高で、晩秋の午後を楽しみました。

 

 

 

 

 

                 

                                akira kurosawa

                夢に舞ふ能美しや冬籠        松本たかし