三木句会ゆかりの仲間たちの会:有冨光英自解150選 その5
星きらびやか酒場の玻璃に檸檬の黄 昭和35年作
霞ヶ浦病院で知遇を得た楠本憲吉氏との交誼はその後も続いた。憲吉氏の紹介で
「青玄」東京句会に何回か出席したこともあった。伊丹三樹彦氏、清水昇子氏を
知ったのもその会でだった。
その頃から憲吉氏は”三イズム”を唱導していた。俳句の要件は、リアリズム、
リリシズム、リゴリズムの三つである、という主張がそれであった。社会性俳句
隆盛の時代に新鮮な印象を受けた。揚句の手法は多分に三イズムに影響されたとこ
ろがあった、と今では思っている。私自身やっと地に足のついた生活を始めた
ばかりだったが、なかなか思うに委せなかった心情を、反語的に表現したつもり
だった。
『日輪』・季語=檸檬
春泥を踏む道明日も続く道 昭和35年作
東京といっても殆ど農村地帯と同じ郊外で育ったので、春泥の道には馴染みが
深かった。”どろんこ道”と言って子供達の遊びの延長上にそれはあった。
俳句を始めるようになってから、生活実感として身近にあった”どろんこ”が
”春泥”という季語となって象徴性を持たせられていることを知った。
春泥には、冬から春にかけて雪解水が流れ出るような開放的な一面と、逆に一歩
でも踏み込むと、泥濘に足を取られるような焦燥感と挫折感を象徴する消極面も
あった。どちらかというと私は消極性の方を強く感じていた。句柄から言っても
なるべく感傷的にならないように、わかりやすい言葉を使ったつもりである。
『日輪』・季語=春泥
photo: y. asuka
奏でゐる自動ピアノや三鬼の忌 三橋敏雄