三木句会ゆかりの仲間たちの会:『70歳からの俳句と鑑賞』聖木翔人著から俳句鑑賞 | sanmokukukai2020のブログ

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       三木句会ゆかりの仲間たちの会:『70歳からの俳句と鑑賞』聖木翔人著から俳句鑑賞

 

    白日・白月集抄(「白」三〇一号)

 

 

    大西日あそこはきつと帰り道    上園 優

 

    大海原からのぼりやがて沈んでゆく太陽。そして天を覆うように雲を輝かせ、高層

   ビルの上階を、強烈に、本当に建築が燃えているように真っ赤に染める西日。そのなか

   にいてそれを向き合い、じっとみている自分。

    この永遠の循環をみていると、宇宙的な自然のなかの一滴の雫のような自分という存在

   のちっぽけさを、なんとも言えない思いで感じないわけにいきません。太陽が、思いがけ

   ない速さで落ちて行くとき、ああ、自分もまたあの道を「帰る」のだとはっきり自分の

   こころに刻むのです。

    「永遠をかさりと置いていった西日」と詠んだのは津沢マサ子でした。西日は「永遠」

   を、わたしたちの眼に焼き付け、そして「かさりと」ちいさな音をかんじさせて、その

   痕跡を残してゆきます。

    西日の熱さ、激しさは驚くばかりです。この句は、壮大な宇宙的な自然の現象に、自分

   の来し方の人生をかさね率直に詠んだスケールの大きな印象的な作品です。

 

 

   いっそきっぱり花火になってしまおうか   宮森 碧

 

    遠花火でも、テレビの花火中継でもありません。作者は河川敷の一角にいるのです。

   川風が吹き、やがて地を蹴って花火が打ち上がります。シュルシュルと軌道音を残しな

   がら天空に上がりきると、わっと花火がたくさんの模様を描きながら、心にじんじんと

   ひびくような音が鳴り渡り、無数の光りの束が天を覆い花を咲かせます。天空に展開す

   る一大ページェント。思わず感情は強く揺すぶられ、おお!と自然に声が出て、拭たく

   ない涙が止めようなくにじんできます。一度や二度はだれしも経験したことでしょう。

    「花火」は季題の中の「花形」。無数の句の殆どは、花火をとりまく情景を詠んでい

   ます。しかしこの句は一切の情景描写も修飾語もありません。作者は花火を目の前でみ

   ながら思うのです。いろんな雑念、世間のしがらみの中でいきている今、いっそきっぱり

   それらを断って、花火そのものになって空に打ち上がり、ああ、そうして思い切ってあの

   花火のように天空をカンバスに、のびのびと自分の絵を描きたいなあ!と。これが、花火

   を目の前でみたときの偽りのない作者の心の底からの言葉です。

    花火とは人に、いまを、潔く生きてゆくことへ勇気や希望をあたえる力があるのです。

 

 

    他人の目に映える幸せ花氷    山戸則江

 

    「ひとのめにうつるしあわせ」。それはなんだろう?作者は、みんな花氷のようなも

   のよ、と言いきります。花は生きたまま氷にとじこめられ、人々は目をみはり、スマホ

   のシャッターを押し、感動的な美しい美術品として見とれます。しかし花そのものは

   自由に息もできず外はなにもみえない。それが、生きた花のほんとうの幸せなの?

    連想は「花氷」からテレビ画面を思い起こさせます。いっさいが周到に準備、加工、

   編集され、あたかもそれが唯一の真実であるかのように日々目の前に映し出される社会

   と人間の風景。「それはほんとうなの?」映るタレントは明るく美しく饒舌で頭がよく

   て快活です。婚約と結婚、やがて出産と家族の幸せが、これでもかと執拗に追いかけら

   れてゆきます。社会の暗部はえぐられることはなく、テレビは普遍的で標準的な幸せ尺

   度をつくりあげ、ひとびとはその幻想をひろく共有して怪しむことがありません。

    作者の近作に「福引でまんまと孤独引き当てる」があります。一読難解ですが、群衆

   の中の孤独(の境地)ということを考えれば、その情景がありありと浮かんできます。

    この作者には躍動する都会的感覚の、ぴりぴりするようなするどさが感じられます。

   人間の内面や世相の裏側の本質をみぬき、言い切る魅力のある作品です。

 

 

 

 

 

 

               

                                                                                                photo: y. asuka

                                                     ひら~とひら~として若布は乾く             高野素十