三木句会ゆかりの仲間たちの会:有馬英子第一句集『深海魚』より
有冨光英氏による『序』より(つづき)
素材と心情との交錯に独自の発想を見せるようになったのは、彼女の人と為りに純粋
抒情の精神が備わっているからであろう。加えて女性という属性も十分に意識の上に入
っている。
秘めし名を小さく記し秋めきぬ (P18)
明日会える白靴みがき念入りに (P23)
少年に会えずに帰る落葉坂 (P61)
秋蝶や忘れたふりの恋心 (P82)
落葉道きれいな嘘の積み重ね (P82)
彼女の作品に創られたものがあったとしても、それは”きれいな嘘”であって決して”汚い
嘘”ではない。自己を表白するのにも心は澄んでいるのである。
啓蟄や二本の足では足りぬわれ (P63)
香水と濃いマニキュアで武装する (P97)
贋作の我かもしれぬ初鏡 (P102)
この先は笑うしかない枯野原 (P110)
歩行困難になったとはいえ、彼女は健常者以上の健全な精神の持主である。これは偏に
ご両親の薫陶の賜であろう。そのご父君も平成五年に亡くなられた。私の同期生であるか
らまだまだ生きていて貰いたかった。その上、ご母堂も発病、入退院を繰り返していると
いわれる。常人ならば意気阻喪するところであろうが、彼女はこの逆境に敢然と立ち向
かった。逆に私達を叱咤するように強靭剛気なのである。(つづく)
< 早くも英子さんの三回忌です。ご命日の11月21日は、
英子さんとの思い出を辿りご冥福をお祈りしたいと思います。>
photo: y. asuka
霜解のインク瓶より生れし雲 有冨光英