有馬英子の俳句 | sanmokukukai2020のブログ

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   有馬英子 第一句集『深海魚』から

 

   ごきぶりを親の仇と追い詰める

 

   鬼の首獲って来られず菊日和

 

   小鳥来るそれぞれが皆青い鳥

 

   おむすびの中身は小春日和かな

 

   初夢で優しい人は遠い人

 

   正月を平らげてゆく若さかな

 

   寒の月叩けばブリキの音がする

 

   二ン月をゆっくり溶かすココアかな

 

   車いすの通れるほどに春が開く

 

   遺伝子を海へと誘ううららかな

 

   菜の花を食べて体を春にする

 

   この人も遺伝子にある桜好き

 

   花水木ひらがなほどの軽さかな

 

   初夏にひょいと写楽の大首絵

 

   香水と濃いマニュキュアで武装する

 

   隊員の母に小春を呼び寄せる

 

   黄落や魔女がほしがる竹箒

 

   逆上がり出来ぬ少年冬うらら

 

   湯豆腐の咽喉に張り付く泣き笑い

 

   木枯しのまた会いたいと言っている

 

 

 

                                                                                                『執念の書』 川端康成

                                   『近代藝術家乃書』より 

 

   執念の書

    川端康成は、日本人初のノーベル賞文学賞を受賞した世界的文学者である。

    若い頃から「原稿はペンで書くので、原稿の他の文字は毛筆で書きたい」との思いを貫

   き、書作に異常ともいえる執念を燃やした。数十年に及ぶ書の修練は、初期の清冽な筆致

   を、異形の線へと変貌させていくのである。

    この「文を以って友と会す」は、川端が好んで揮毫した言葉で、一九六九年ソウルで行

   われた国際ペンクラブ大会での記念講演の題目であり、母校茨木中学校の石碑にも刻まれ

   ている。

    死の前年、孔雀毫の筆で書かれたこの筆線には、まとわりつくような不気味さが漂い、

   作家としての業を剥き出しにした、危うさと発熱が感じられる。

    日本の近代文学における頂点に立ち、文学を通した世界との対話における舵手として注

   目されていた最中、自らの手で命を絶った。

    そこには前年に自決した三島由紀夫への無念があり、近代人の癒されることのない孤独

   への闇が潜んでいるように思われる。

 

                          梶川芳友 『近代藝術家乃書』より