わたしの選んだ特選句
朧月も我も解れてゆきそうな 米澤 然
選んだ人:白樫ゆきえ
この句を目にした瞬間自分も力が抜けてリラックスした気持ちになりました。何度拝見し
ても同じ気持ちになれます。
この先は春風を待つ難波船 樹 水流
選んだ人:飛鳥遊子
普通は難破船と書くようですが、難波船と書く場合もあるとのことで、意味としては同様
として考えてみます。文字どうり、座礁などして難破船となった船が、自力では脱出でき
ず、この場合は春風といっても春疾風の力を借りて動き出したい、とも読めます。が、私
は難破したのは作者ご自身。何かの厄介な状況に陥ってしまったのだけれど、もう何をし
ても改善は見込めない。あとは春風が吹いて良い方向へ向いていってくれることを待とう、
と解釈しました。難破している割には春風としたことでのんびりしていて、ちょっと他力
本願だけれど、その程度の風で前進できるほどの難儀と感じました。読み手の想像を刺激
してくれる句になりました。
もう時季と笑うごと咲く春の蘭 加藤光樹
選んだ人:吉村未響
蘭は手入れが大変ですが長く楽しめる花だと思います。とくに水やりの頃合いが難しい
ですね。長く楽しめるのですが、実はその時々で異なる表情をもっていることに、この句
に出会って気づきました。ある美術館を訪問した際に、花の根っこは咲く花にプライドを
もっている、というフレーズに出会いました。
花を咲かすこと、またその花の美しさを保つことは簡単なことではありません。様々な
状況がうまく重なってこそ、笑うように咲き私たちの心を潤す美しい表情を保っているの
だということに改めて気づきました。
口中に豆まきにけり鬼は外 白樫ゆきえ
選んだ人:米澤 然
豆を口に放り込んだとたん、鬼が飛び出てくる様子がありありと浮かび、思わず笑みが
漏れました。「福は内」ではなく「鬼は外」と戒めつつ、ユーモラスに表現されていると
ころにゆとりを感じ、私にとっての特別な句となりました。
photo: david west
藤椅子に記憶の中の海を抱く 田中 梓