有馬英子の俳句 | sanmokukukai2020のブログ

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   有馬英子 第一句集『深海魚』から

 

   風笑うつられて笑うねこじゃらし

 

   鶏頭の耳まで届く鼓動かな

 

   むきだしの魂抱え冬日落つ

 

   いちまいの枯葉を握りつぶしたる

 

   十二月腰を浮かせて話しけり

 

   いとなみを断ち切る寒の人さらい

 

   自画像に目玉三つの二ン月

 

   ものの芽の一語一語を盗み聞く

 

   春月を食べ残したり銀の匙

 

   木瓜咲いて三人分の笑い声

 

 

                     『人生無根蔕』 熊谷守一

                        『近代藝術家乃書』より 

 

   天地自在の書

    熊谷守一は近代洋画壇のなかで特異な輝きを放つ画家である。

    豊かで深い人間性に惹かれ、いまも多くの人々から敬愛される熊谷さんの油彩は、太い

   輪郭線のなかに、鮮やかな色彩と生命力が満ち、観るたびに新しい発見がある。それとは

   対照的に、にじみやかすれを生かした、飄々とした墨書は、無一物の境地を感じさせ、文

   化人やコレクターの注目を集めてきた。

    私は生前、豊島区千早町にある熊谷さんのアトリエを足繁く訪ねた。「絵というものは、

   私のものの見方なのです」と語った熊谷さんの一日は驚くほど静かなものであった。庭先

   に寝ころび、昆虫や石を眺め、そして夫婦で碁を打ち悠然とした時間が流れていく。

    数え年九十八歳、最晩年に揮毫して頂いた「人生無根蔕」は、陶淵明の漢詩の一節で、

   人の命には、木の根や果実の蔕のようなしっかりした拠り所がなく、まるであてどなく舞

   う塵のようなもの、という意味である。この書には、一度きりの人生を天地自在に生きた、

   熊谷守一の生涯が映し出されている。

                           梶川芳友 『近代藝術家乃書』より