わたしの好きな俳人の五句
3月の「わたしの好きな俳人の五句」は、小梅さん、きょう子さん、水玉さんです。
小梅さんは小津夜景の三文字俳句「梟忌」から選ばれました。1973年生まれの夜
景はフランス・ニース在住の俳人。第8回田中裕明賞受賞。小梅さんらしい人選です。
きょう子さんは湘南出身の俳人鍵和田秞子から選ばれました。
水玉さんの選は寺山修司。人により多様なイメージを持っている作家ですが、俳人
としての実績も高く評価されています。
小津夜景(おづ やけい) 選んだひと 神宮前小梅(じんぐうまえ こうめ)
燕搏几 (つばくらめ/はりつけにする/かぜがまえ)
朧月砉 (おぼろづき/ほねとかわとがはなれるおと)
英娘鏖 (はなさいてみのらぬ/むすめ/みなごろし)
戦隼飍 (いくさ/はやぶさ/おおかぜのおこるさま)
潦㸪昼 (にわたずみ/うしのあゆみがおそい/ひる)
私は漢詩に憧れているせいか、漢字にデレデレしてしまうタイプのようです。平仮
名はルビとして、ジッと三文字(漢字)を見つめていると、口の中でハーブキャンディ
(プロポリス配合)がちょっとずつ溶けていくような感じで、愉悦です。
鍵和田秞子(かぎわだ ゆうこ) 選んだひと 草野きょう子(くさの きょうこ)
岐路いくつ桜濃き方水ある方
夢ぬちの私憤に覚めて罌粟の花
崖の百合殉教のごと一列に
一日抱く妬心や音なき落椿
金縷梅やひとり遊びはむかしより
数年前、茅ケ崎の友人が、「鍵和田秞子、未来図、鴫立庵の庵主」と書いたメモを
手渡してくれました。高校時代からの親友だということでした。お目にもかかって
いませんが、ポケットに入るくらいの句集 「花詞」 に収められている句です。
寺山修司(てらやま しゅうじ) 選んだひと 小泉水玉(こいずみ みずたま)
林檎の木ゆさぶりやまず逢いたきとき
わが夏帽どこまで転べども故郷
かくれんぼ三つかぞえて冬となる
ランボーを五行飛びこす恋猫や
炉火にうつむきあなたは海が好きでしょう
寺山を知ったのは、高校生のとき。ラジオドラマで流れた彼の童話がきっかけでし
た。その後、没後ではありましたが、彼の演劇、短歌、エッセイに親しみ、でも彼
の俳句に触れたのはだいぶ後年になってからでした。
多彩な寺山修司の創作の原点は俳句だったといいます。また、彼の句作は一五歳か
ら一九歳までの限られた時期のみの行為でした。
今回、句を選ぶにあたり、あんず堂の「寺山修司俳句全集」を久しぶりに読み返し
ました。青年らしい暗さ、瑞々しさの溢れる句に混じり、多くの句のなかに彼の戯
曲の源泉を思わせるイメージや他ジャンルの作品にも通底するテーマが見え隠れして、
とても興味深く感じられました。
若いときに夢中になって読み漁った寺山修司をいま、俳人として顧みるまたとない
きっかけになりました。よい機会を与えてくださって、本当にありがとうございます。
次回4月は穂高さん、三徳さん、花子さんにお願いいたします。
photo: y. asuka