『ごま豆腐』一巻抜粋 文:星野香栄 96年執筆 」

 

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●精進料理を代表するものにごま豆腐があります。最近では、かなり多くの料亭などでごま豆腐を饗しておられますが、それぞれに趣きがあってたのしいものです。

 

 ごま豆腐は、胡麻のエキスと水と葛を熱して練り上げ、型に入れ、水で冷やして固めたものです。  

 豆腐は中国から日本に渡来し、諸大寺などを通り、専門に商う人々によって作られ今日に及んで来ましたが、ごま豆腐はおそらく禅寺で工夫されたものがそのままお寺に残って来たものと思われます

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 なぜなら、その調理が極めて簡単なこと、作りかたが非常に努力がいることなどで、禅寺の典座の修行にこれ以上素晴らしいものはないからです。  

 ごま豆腐は、かなり強火の上で、練って練って練りあげ、両手の指に血まめが出来るほど真剣に作らなければ、照りも腰の強さも生まれてきません。

 

 ぽくぽくしてすぐ割れてしまったり、ぐにゃぐにゃして柔らかく、力強さの無いものでもいけません。  精進料理の一つのバロメーターとして、ごま豆腐を三年ほとんど毎日練ってみて初めて一つの到達点に立てるのです。  本当に解るのは、ざっと十年かかると思います。

 

 

 十年後ま豆腐の修行を重ねますと精進料理全般にわたって解ってきて、食作法や、生きることの尊さが見えてくると思います。そして更に、生涯かけてごま豆腐を練ることは、生涯かけて生きることを知ることです。

 

 それは精いっぱい作ったごま豆腐は、作り終えると間もなく無くなってしまうという何とも空しくはかない命だからです。料理というのものは、多かれ少なかれ、はかなく消えてゆくものですが、料理の中で、ごま豆腐ほど、このことを強く感じさせるものはないのではないかと思われます。

 

 一昨年、フランスの料理研究家の西井郁さんが精進料理を通して日本の文化を知りたいと尋ねて来られ、半年の見習い期間を経て内弟子になられました。  そして門下生の人たちも郁さんについて弟子入りされ、三光院も賑やかになりました。

 

 その昔、お釈迦様のところへ舎利弗・目連の二人の聖者が、たくさんの弟子と共に弟子入りした古事を考えると、二代の弟子を迎え育てるのもよいかなと思っております。その弟子の中で一番若いお人、私にとっては孫弟子にあたりますが、昨秋より一年半の見習いを経て、ごま豆腐作りに入りました。

 

 

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